“のさり”とは、いいこともそうでないことも、自分の今ある全ての境遇は、天からの授かりものとして否定せずに受け入れるという、天草の優しさの原点ともいえることば。“のさり”の風が吹く天草で、ひょんなことから生まれる奇妙でやさしい時間。コロナ禍により人との繋がり、生き方が見直されるようになったいまだからこそ、「のさり」のやさしさ、天草の持つ人間性が心に染み渡る。 “その土地に暮らす”ということの重みと、ひとの繋がり、心の交流が胸にじんわりと時を刻んでいく。この度、映画『のさりの島』が2021年5月29日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開されることが決定した。
本作は19年ミニシアターファンの心を捉え大ヒットした『嵐電』(19/鈴木卓爾)に続く北白川派の最新作となる。群れから離れるようにオレオレ詐欺の旅を続ける主人公に、映画『his』(20/今泉力哉監督)、主演映画『佐々木、イン、マイマイン』(20/内山拓也監督)にて、第42回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞、大河ドラマ『青天を衝け』(21年)、映画『くれなずめ』(21年4月29日祝・木全国公開/松居大悟監督)など話題作への出演が続く、今最も旬な俳優・藤原季節。ふと“嘘”の日常に溶け込んでしまう、さまよえる若者を好演している。オレオレ詐欺の男を孫として迎え、奇妙な同居生活を送るつかみどころのないお茶目な老女役に、本作が遺作となった原知佐子。
『おくりびと』(08/滝田洋二郎)の小山薫堂をプロデューサーに、海外でも高い評価を得た『カミハテ商店』(12)の山本起也監督がメガホンを取った。
評論家 上野昻志 映画応援コメント
■上野昻志(評論家)
一見、とらえどころがない作品に思えるが、そこには、作り手の周到な設計が施されている。
緩やかな時間の流れ。それが、この映画をさりげなくも豊かに律しているのだ。
本作のプロデューサー・小山薫堂 コメント
■小山薫堂(プロデューサー)
新型コロナウィルスという脅威に人類が翻弄されている今。
多様な価値観を認め合うことが必要とされる今。
そんな時代に「のさり」という天草弁に出会うことで、人の心は少しだけ軽くなります。
のさりとは、良いことも悪いことも天からの授かりもの、という考え方。
それはあらゆる苦難を乗り越える力であり、自分とは違う考えを認める力であり、全てのものに愛を持って接する優しさの力です。
『のさりの島』という作品が、コロナ禍における心のサプリメントになることを信じています。
本作の監督・山本起也 コメント
■山本起也(監督)
嘘、という言葉はあまり良い意味で使われませんが、嘘の中でこそ救われる、ということがあると思ったのです。
あるいは、この映画の台詞を借りれば「まやかしでも、人には必要な時があっど(ある)」ということかもしれません。
オレオレ詐欺の男と、電話を受けたおばあさん。
二人がついた嘘が、寂れた街のシャッターの向こうで、いつしか本当になる。
ふと訪れた天草でこの映画の話をしたところ、そこに居合わせた方がこう答えました。
「監督、そん話、天草だとあるかもしれんばい」
この映画は天草で撮らねばならない、そう心に決めた瞬間でした。