日時:10月5日(月)
場所:テアトル新宿
登壇者:大九明子監督、鈴木もぐら(空気階段)、前野朋哉
お笑いコンビ「シソンヌ」のじろうが長年、コントで演じてきた架空の独身OL・川嶋佳子の物語を日記形式でつづった小説を映画化した『甘いお酒でうがい』。本作の公開を記念して10月5日(月)に東京・新宿のテアトル新宿でトークイベントが開催され、大九明子監督、本作に出演しており、先日の「キングオブコント2020」ではファイナルに進出した「空気階段」の鈴木もぐら、同じく本作に出演している前野朋哉が出席した。
この日は大九監督、鈴木、前野の共通点をテーマにトークが展開。まず最初に、鈴木と前野の共通点として挙がったのが、共に大阪芸術大学の映像学科に在籍していたということ。鈴木は「ドキュメンタリーに興味があって、原一男さん(※『ゆきゆきて、神軍』監督)が(教授で)いるということで」と進学の意外な理由を明かしたが、「大学の近くにパチンコ屋があって、そこに通い詰めてしまい、学費が払えなくなって除籍になりました」とわずか1年未満で除籍となってしまったと告白。
鈴木よりも1年早く入学していたという前野は、このパチンコ屋に「たまに『エヴァ』を打ちに行っていた」とのことで「(店で)会ってたかもしれませんね」と驚いた様子だった。
続いて、大九監督はもちろん、前野も「映画監督」として活動しているという共通点に触れ、互いの監督としての魅力について尋ねると、大九監督は「俳優の魅力の引き出し方をわかっていて演出が素晴らしい」と絶賛。一方、大九作品の常連である前野は「毎回、映像で(完成した映画を)見たときに、こういう作品だったんだ! とびっくりします」と大九マジックを語る。
また前野は「僕のことを寄り(アップ)で撮ってくれるのは大九監督だけ」と明かすと、前野のことが「大好き!」だという大九監督は「そりゃ寄りで行っちゃうよ!これは」と興奮気味に語る。
さらにトークはこの『甘いお酒でうがい』の映画化についてに。大九監督は「じろうさんの原作が本当に美しくて、何度か泣きながら読みました」と明かす。じろうさんは、大九監督の『美人が婚活してみたら』の脚本を担当しているが「じろうさんと2本目を組むなら、絶対にこの原作でやりたいとお願いし、好きなエピソードを組み込んで何事も起こらない映画を作ろうという覚悟で作りました」と思いを語る。
前野は「黒木華さんの役が、メチャクチャかわいい!現実にこんな子がいたら、好きになっちゃうよねという話をしていました。かわいすぎて、こんな子、いるはずがない!何か裏があるんじゃないかって…」と興奮気味に魅力を語る。
鈴木も同意見のようで「スクリーンの中にちゃんと存在してるってすごいですよね」とうなずく。撮影現場で、鈴木さんは主演の松雪泰子さん、黒木さんを前に「実在するんですね」と思わず言ってしまったそうで、劇中では松雪に触れるシーンも! 「松雪さんを触った手で次の日、パチンコに行ったら当たりました(笑)」と語った。
大九監督と鈴木は撮影時が初対面となったが、大九監督は「私が一方的にファンだったので、ドキドキしていました(笑)」と告白。鈴木は、当時はいまほど売れておらず「歌舞伎町のカラオケバーで」バイトをしていたそうで「(配給会社である)吉本の社員が(撮影)現場で驚いてました。『なんでいるんですか?』って(笑)」と振り返る。
一方で、大九監督は空気階段の飛躍を予期していたそう。本作に続き、大九監督が演出を務めたドラマ「時効警察はじめました」にも鈴木は出ているが、昨年のキングオブコントの決勝は、「時効警察」の撮影の翌日だったとのことで、同作にも出演している前野は「その日、撮影は(朝の)4時までかかったんです(笑)。『ここから行くんだ? すげぇ!』って思いました」と懐かしそうに振り返る。
鈴木は「実は、(昨年の)準決勝も撮影の後、すぐに飛び出したんです。逆にそれがよくて、それがなかったら固くなってたと思います」と明かした。
大九監督は、今年の結果を受けて鈴木に「てっぺんが見えてきましたね」と期待を寄せる。鈴木は「てっぺんを見る前に、まずは借金を返さないと…。そこからですね」と笑いを誘っていた。
ちなみに、鈴木だけでなく大九監督、前野も「芸人」として活動していた経験があるというのも意外な共通点。大九監督は養成所のJCAに1期生として通っていたが「私は、グダグダに挫折してしまい、何をしていいかわかんない中で映画だけが趣味で、映画館で映画美学校の1期生の募集を見て、作る側にシフトした人間。完全なる挫折を…」と苦笑する。前野が「どんなネタをやってたんですか?」と尋ねると「ピンでえげつないネタをやってて、放送できるネタがあまりなかったんです。何度かTVに出させていただいたんですが、いつも『そこ変えましょうか』って言われちゃう…」と照れくさそうに明かした。
一方、前野は映画、ドラマで漫才師の役を演じたことから、プロモーションを兼ねてM-1グランプリにも挑戦し、1回戦を突破した。この挑戦について「いい経験でしたし、芸人さんのことを心の底からすごいなと思うようになりました。決まった時間で笑わせないといけないというのは別次元のスポーツのようでした」と述懐。
お笑い芸人でありながら、俳優としても高い評価を得るマルチな才人が増えているが、大九監督は「私が(監督として)ご一緒した方たちはコントの方が多いんですが、手数が多くて、現場で『こう変えましょうか?』と指示を出した時の対応力が素晴らしい。安心して委ねられる」と指摘。
前野は、「時効警察」での鈴木の演技に触れ「オダギリさんたちが来るのを察して、白目になるシーンがあったんですけど、ああいうのは普段、お芝居してて出てこない!」とその瞬発力を大絶賛。大九監督も「あのシーンは、白目にしてなんて言ってないし、ト書きにもないけど勝手にそうなった」と鈴木の役者としてのポテンシャルを讃えていた。
鈴木が、自身(鈴木)を主演に据えて映画を撮るとしたら? と2人に問いかけると、前野は「セリフのないタヌキをやってもらいたい」と珍提案! 「悪いタヌキを石橋蓮司さんとかにやっていただいて、もぐらさんは、ちゃんとした“いい”タヌキをやってほしい。捕まって、タヌキ汁にされて、かわいそうに…という感じで」と具体的な物語まで即興で提案する。
一方、大九監督は「実はもぐらさん主演で、既にプロットがあります!」とニヤリ。「タイトルも決まってて、何人かのプロデューサーにも話してあって、ショートフィルムの企画が来たら、心に決めている」と既に練られた構想があることを明かす。気になる役柄は「人間ですが、ちょっと変わった人と“何か”の間みたいな感じ」とのこと。
鈴木は思わぬオファーに「楽しみにしてます!オファーをお待ちしてます!」とノリノリで語り、会場の笑いを誘っていた。
最後に、「波風立てないように、じろうさんと細心の注意を払って作った映画なので、静かにひたひたと味わってほしいです。」と大九監督から観客に向けてメッセージが届けられた。
。