日本が大切にしてきた“もったいない”について考える珠玉のドキュメンタリー映画『もったいないキッチン』が、8月、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国にて公開となる。本作の完成披露試写会を 4 月 2 日に予定されていたが、新型コロナウィルス感染症拡大防止のために、オンライン試写会へ切り替えて開催された。
本作『もったいないキッチン』は、日本が大切にしてきたもったいない精神に魅せられオーストリアからやってきた映画監督で食材救出人のダーヴィド・グロスが、日本を旅して様々な“もったいない”アイデアに出会うロードムービー。食材救出人の異名も持つダーヴィドは、前作『0 円キッチン』(15)でヨーロッパ5カ国をキッチンカーで巡り、捨てられる運命の食材を美味しい料理に変身させました。本作『もったいないキッチン』ではその舞台を日本に移し福島から鹿児島まで 4 週間 1600km を旅する。映画上映前にはダーヴィド・グロス監督のメッセージ動画が上映された。
「なぜ日本を舞台に食品ロスに関する映画を作ったのか」とよく聞かれるという監督は、その理由を次のように答えた。「日本では大量に食品ロスがあることはとてもショッキングですが、同時にたくさんのサステナブルな解決方法があることに興味を持ちました。そのすべてが“もったいない精神”に基づいていました」。そのもったいない精神とは何なのかを突き詰めるうち、「食べ物にも命、魂が宿っていることに気づいた」という。「命や魂が宿っているなら、捨てずに料理すべきです」と映画のメッセージを伝えた。
続いて映画『もったいないキッチン』の上映がスタート。参加者100名が遠隔で映画を楽しんだ。映画上映後にはオンライン舞台挨拶が実現!出演者が次々にオンライン上で挨拶をした。
まず、ダーヴィドの旅のパートナーとなった塚本ニキが登壇。実は当初この旅の通訳をお願いされていたところ、ダーヴィドと意気投合したことで旅のパートナーに大抜擢されたニキは次のように映画を振り返った。「毎日が発見と気づきの連続で明日は何が起こるんだろうというワクワクを感じながらの旅でした。完成した映画を観ていると、いろんな場所で食べた味が蘇ってきます。一番美味しかったのは若杉おばあちゃんの野草のてんぷら。葉っぱを食べてる~!でも美味しい!という感動体験でした。目隠しをしながら精進料理を食べた「暗闇ごはん」も印象深いです。恐る恐る食べた料理には茄子のヘタも食材として使われていて、ヘタも食べられると知らなかった私はとても驚きました。目隠しされていると他の感性を研ぎ澄ませながら味わうことになるので、改めて食事をするということを考えるきっかけになりました。今、私たちはコロナウィルスの影響で家にこもってひとりで食事したりする機会が多くなって、とりあえずのカロリー摂取として食事をしてしまうこともあると思います。でも「何をどう食べるか」という選択は私たちの体の健康だけではなく、心の健康にも影響を及ぼします。食事に集中しないまま適当に済ましてしまうのか、少しの手間と気持ちを込めて準備した料理をいただくのか。私はこの映画の撮影を通して、食べることともっと向き合ってみようと思いました。」
次は、食品ロス問題専門家でジャーナリストの井出留美がオンライン上に登壇。ダーヴィドとニキと食品リサイクル工場や、コンビニエンスストアで廃棄の現状を目の当たりにするシーンを引き合いに出し「コンビニで止められるのも聞かず、販売期限切れの品をダーヴィドが勝手に食べてしまうところが、彼らしいキャラクターが出ていて印象深かったです。取材クルーみんなが固まった瞬間でした(笑)」と語った。
また日本の食品ロスの現状について「日本では1年間に 643 万トンものまだ食べられる食べ物を捨ててしまっています。これは都民が一年間に食べる量と同じ量。そして今、「備蓄」についても注目が集まっていますが、実はこの「備蓄の廃棄」も非常に多い。しかしそれはこの 643 万トンにカウントされていません。もうひとつ、畑や海で切り捨てられる基準外の野菜や魚類もカウントされていません。ですから、実際の廃棄量はもっと多いと思います。ダーヴィドも言っている通り、「食べ物は命」なんです。私は常にそう思ってきましたが、映画を観て改めてこの映画も「食べ物は命」というテーマになっていて驚きました。加工食品はモノにみえるけれど、それも命。命あるものだと思えば捨てることはできないと思います。食べ物はモノだと思っている人に是非この映画を観て欲しいです」と語った。
続いて登壇したのは、大阪の元ホームレスの方々に廃棄食材を使った創作料理を作り振る舞った、Salon de AManTO のオーナー天人純。「本当にすばらしい体験をさせてもらいました。うちのカフェはホームレスの人や難民の方の受け入れをしています。地域の人にとって、町内の人にとって不安なこと。けれども彼らの体験を聞いたりすると興味深かったりするんです。食べ物を通して人とのつながりができる。 今、私たちはコロナのせいで立ち止まざるを得ない状況に直面しています。それは今までいかに勝手をやってきたか思い知るきっかけになるでしょう。命が脅かされている今だからこそ、‟命を捨てる“という食品ロスに向き合う、そんな時なのかもしれません」と語った。
食品を包装するプラスチックのリサイクルは食品ロスと同様に重要な課題として、映画には革新的なリサイクル工場が登場する。運営する日本環境設計の岩元美智彦会長は、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に登場する“ごみを燃料に走る車”デロリアンに感動し、デロリアンをアメリカで購入したと言います。「ごみで走るデロリアンはまさにリサイクルの象徴。資源を再利用していくのは今後循環型の社会を作っていくには大切なことです。不要になった携帯電話をリサイクルして東京2020オリンピックメダル制作を NTT ドコモの技術サポート(連携)させて頂きました。オリンピックは平和の祭典ですから、戦争の元になる地下資源を使わずに作るべきと考え、今回世界で初めてこういった方法で作ることになったのです」映画のハイライトのひとつに、一般家庭にダーヴィドが突撃し、冷蔵庫を抜き打ちチェックするシーンがあります。オンライン舞台上には、ダーヴィドが抜き打ちチェックで救出した冷蔵庫で眠っている食材を料理してくれた、たかはしかよこシェフが登壇し次のように語った。
「撮影のあとからずっと「もったいない」について考えながら生活してきました。今日映画を観て改めて、もったいないエネルギーがどんどんつながっている感じがしました」最後に、撮影クルー久保田徹が登壇し、撮影を振り返った。「食べ物、環境、植物、動物がつながっているのと同じように、撮影しながら、ダーヴィドとニキ、また人々の思いがひとつの道としてつながっていくという感覚がありました。撮影は大変でしたが、そんな素晴らしい感覚を思い出しました」最後に、プロデューサーの関根健次の力強いコメントでオンライン完成披露試写会は閉会した。