交通事故で意識をなくした女性とその元夫、現在の夫、息子、そして元夫の恋人——そんな5人の男女が、それぞれの思いを絡ませながら問いかける「家族とは何か」。『カゾクデッサン』はそんなテーマを内包する、今井文寛監督の初長編作だ。それぞれの魂のぶつかり合いが感動を呼ぶ本作で、無骨で暴力も辞さない主人公・剛太を演じるのは実力派俳優の水橋研二。近年は映画のみならず声優などでも活躍するキャリア豊富な個性派は、新進監督の初陣にどう臨んだのか。
まずこの映画への出演の経緯について教えていただけますか。
■水橋研二:オーディションで選んでいただいて。何が良かったんだろう? 少し前にドラマで死刑囚役をやって坊主頭にしたから、髪が短かったのがハマったのかな(笑)。 特別な役作りはしなかったですね。ヒゲを生やして、少し体重を増やして。(主人公の)剛太は飲んだくれで自堕落な食生活をしていそうだから、カップラーメンを食べたりですかね。
水橋さんといえば、映画で主役を演じた『月光の囁き』(99年)や『美代子阿佐ヶ谷気分』(09年)のような文系男子のイメージがありますが、この映画では無骨でマッチョな役柄ですね。
■水橋:爽やかな高校生の役は、「水の中の八月」(98年に放送されたNHKドラマ)で初めてだったと思います。その当時はヤクザ系のVシネマの仕事が多かったので、マジメなおとなしい感じっていうよりチンピラみたいな役が多かったです。『月光の囁き』以前もそうですね。Vシネ全盛の頃は、(竹内)力さんや(清水)宏次朗さんの子分をよくやってました。だからこの剛太役にはすんなり入れたと思います。
自身の書いたオリジナル脚本で初めての長編映画を手掛けた今井文寛監督の演出には、何か特徴はありましたか。
■水橋:とにかくエネルギッシュな印象でした。監督が持ってるイメージを(出演者に)伝えるのに一生懸命で。熱をもって話しをしてくれてました。(スタッフ、キャスト)みんながひとつの方向に向かっている感じだったので、とてもやりやすかったです。そんな中で僕は“素材”としてできる限りのものを提示しよう、そんな気持ちでした。監督がいての僕らですからね。
今年、いくつかの映画賞で女優賞を受賞している“時の人”瀧内公美さんとの共演はいかがでしたか。
■水橋:(いろいろ受賞して)いいなあって(笑)。瀧内さんとは撮影の合間によくおしゃべりしました。お芝居のこと以外が多かったですね。Barのシーンの撮影中は、控室が遠かったこともあって合間もずっと現場にいました。待っている間は“素の瀧内公美”に戻るんじゃなくて、役のままそこにいてくれたのでとてもやりやすかったですね。だから出番がきて「よーし、やるぞ」って感じじゃなく、自然に撮影に入っていけるのが良かったと思っています。
元妻の息子・光貴役、大友一生くんと境内での殴り合いの場面は、感情が爆発するいいシーンでした。
■水橋:ふだんは飄々とした感じで、とても素直ないい子ですよ。十数年ぶりに会う設定ですから、ちょっと距離感を持って、変に馴れ合いにならないように、無駄に話しかけないようにしていました。殴り合いのシーンでは殺陣の振付があったのですが、彼の見たことのない顔を見てみたいということでちょっと手を出すタイミングをずらしてみたり。変わっていく彼の表情をカメラに収めるのが重要だとみんなが認識している。大友くんもそれを理解しているから、素直に殴りかかってくる――。いいシーンになったと思っています。
監督も喜んでくれてたと思います。
テレビドラマや、最近ではCMでもお見かけしますが、水橋さんはこれからも映画を中心に活動していかれるつもりですか。
■水橋:映画は大好きでどんどん出演したいんですが、一時期、全然呼ばれなくなって……。ミニシアター系作品が少なくなった頃から映画の仕事が減ってきました。でも今のマネージャーは映画、演劇が大好きなんで、最近また映画(の出演)が増えてきています。これからも映画を軸足に、なんでもやります。もともと僕は自主映画からスタートしてる俳優ですからね。
取材・文 川井英司