長編デビュー作 『ヘレディタリー/継承 』が世界中の映画サイト、映画誌に絶賛され、いまハリウッドの製作陣が”最も組みたいクリエイター”としてその動向に注目が集まっているアリ・アスター監督の最新作『ミッドサマー』が2/21(金)にTOHOシネマズ 日比谷他にて全国公開となる。恐怖の歴史を覆す、暗闇とは真逆の明るい祝祭。天才的な発想と演出、全シーンが伏線となる緻密な脚本、観る者を魅惑する極彩色の映像美が一体となり、永遠に忘れられない結末に到達する。そこに待つのは究極の恐怖と、未体験の解放感。体験した者は二度と元には戻れない”フェスティバル・スリラー”がついに日本解禁!2/11(火)TOHOシネマズ 日比谷にて、映画評論家の町山智浩が本作を語るトークショー付きの上映が実施された。本作の脚本・監督をつとめたアリ・アスターとのインタビューも行った町山智浩が、“天才的な発想と演出、全シーンが伏線となる緻密な脚本”などと絶賛される本作に魅力を存分に語ったイベントとなった。
上映終了後、白い民族衣裳と花冠を身につけて登場した町山智浩。映画の衝撃を受けたばかりの観客に拍手で迎え入れられた。早速観客からの質問を受け付けた町山。トークはQ&A形式で進行した。
Q、今はこんな村はないとは思うのですが、もしかしたら昔の文献とかでホルガ村のような場所があったという記録があったのでしょうか。監督はそういうものを調べて参考にしていたのでしょうか。
最初の質問に対して、町山は「監督はスウェーデンの映画会社からオファーを受けた時に、考えたのが“日本の映画”だったと言っています。今村昌平の『神々の深き欲望』(68)という映画を思い出して、同じようにスウェーデンでも(土着的な)風習がないかどうか調査したそうです。そこからシナリオを作ったんですね。『神々の深き欲望』は沖縄が舞台となっていて、政府の役員の測量士が主人公で、その村の風習に巻き込まれていくというもの。つまりストーリーの基本は今村昌平監督なんです。」と本作が作られたきっかけと、そのアイデアのルーツを語った。
「それ以外にも参考にした作品として『鬼婆』(新藤兼人監督)も挙げています。あれは戦国時代が舞台で、河原に住む貧しい家族を描いたもの。その物語の中で、家族同士で殺しあうっていう話がある。前作の「ヘレディタリー/継承」でも引用したと監督は公言していました。先日、来日した監督は京都とかを取材したみたいだけれど、今度は日本が舞台だと思っています。物価が安いからといって日本に来た外国人たちが、恐ろしい目にあうみたいな物語になるんじゃないかなと笑」と監督の今後に関して期待を寄せた。
Q、ヒロインの家には絵がかけられていた。そういうところにも意図があったのでしょうか。
続いての質問に対して町山は「ヒロインの部屋の絵には意味があります。もちろん恋人・クリスチャンの家の絵にも意味があります。(ホルガ村で)全員が寝ている家に書かれていた絵にも意味があります。」と全てのシーンが伏線との呼び声高い本作が、いかに緻密に作り込んであるかと語った。
「(村に訪れるのが)全員で9人ということにも意味がある。1人1人が10年を象徴していて、全部で90年になります。(舞台は90年に一度の祝祭)さらに、9人の人たちはアメリカだけでなく、イギリスからも来てます。大抵こういうストーリーは有色人種の村に白人が来ることで何かがおこるのですが、今回はその逆ですね。」と従来の似たような映画とも一線を画す新しい要素が多くある映画だと念押し。
Q、『ウィッカーマン』と何か繋がりがあるのではと感じました。
また「巨人ユミル」というのは進撃の巨人でも聞いたことがありますが、あれはなんでしょう。
似たような設定の過去作との関連を質問された町山は、「『ユミル』は北欧神話に出てくる巨人の祖先のことですね。そして、監督は『ウィッカーマン』は参考にしていないと否定しています。似てしまっているが、たまたまそうなってしまっただけとのことです。」と作品の本質は他の恐怖映画とも異なると回答した。
Q、一見怖いこの映画で、アリ・アスター監督が本当に伝えたかったメッセージは?
最後に、スリラー映画というジャンルでありながらも監督が本当に伝えたかったメッセージは何かと聞かれた町山。「映画を企画する時に、たまたま自分自身の恋人との別れということがあったから、それを映画に反映したんです。その時にイングマール・ベルイマンの作品からとても影響をうけたとアリは言っています。『ある結婚の風景』(73)という作品です。実は『マリッジ・ストーリー』(19)のノア・バームバック監督も、『ある結婚の風景』に影響を受けたと言っています。あれもすごく個人的な離婚という問題の一部始終を描いたものです。本作も同じなんですよね。」と、ジャンル映画の皮をかぶりながらも、実は爽快な失恋映画でもあるということを語った。
さらに町山は、「自分自信の傷ついている問題を癒そうとすれば、それが世界に響くものになるということを監督は言っています。そして、短編の時からずっとやってきたホラー形式が得意だからやっているけれど、本当に描きたかったのは“人間の本質”だということです。」と監督インタビューにて本人から直接聞いた言葉を、観客の方々に届けた。
スリラーでありながら、まさかの失恋映画でもあった異色の映画『ミッドサマー』。その魅力を余すことなく町山は語り、イベントは終了となった。