路上駐車の車を取り締まる駐車監視員。その制服の色から“ミドリムシ”と呼ばれ、ドライバーから嫌われている彼らを主人公にした映画が誕生した。映画『ミドリムシの夢』は、深夜の西新宿で駐車禁止を取り締まる二人のミドリムシが騒動に巻き込まれていく姿を描いた、一夜の物語だ。『スペシャルアクターズ』の富士たくやと『おっさん☆スケボー』のほりかわひろきが駐車監視員を演じている。この度、この作品でメガホンを取った真田幹也監督と、ミドリムシの一人・シゲを演じたほりかわひろきさんにインタビューを行った。
今回、もともとはほりかわひろきさんと富士たくやさんの間で「映画を作りたい」という話になったことからこの企画が始まったそうですね。そのあたりの流れを教えてください。
■ほりかわひろき:僕と富士さんが5~6年前に知り合ったんです。あるパーティーで富士さんとある会社の社長と出会って、3人ですごく仲良くなったんですよね。それで「僕がお金を出すから君たち二人で映画作りなよ!」と社長が言ってくれて、本格的に動き出したんです。それで、もともと僕は真田監督と知り合いだったので、監督を真田幹也にやってもらおうという話になりました。
もともと真田監督とほりかわさんは知り合いだったんですよね。数いる監督の中から真田さんを選ばれた理由はなんだったのでしょうか?
■ほりかわ:人柄ですね(笑)。もう長年の友だちなんですけど、映画監督としての腕も信頼できるし、人柄もいい。富士さんは真田を知らなかったんですけど、もう真田に会ってすぐに「採用!」って(笑)。
■真田幹也監督:それで、僕と富士さんとほりかわさんと脚本家の太田善也さんの4人でどういう話にしようかと考えているうちに、ストーリーの骨格ができてきました。
■ほりかわ:なんせ僕と富士たくや、主演がおっさん二人ですからね。バディもので警察の話とかもいろいろ考えたんですけど、結局は駐禁を取り締まる駐車監視員コンビの物語になりました。
ミドリムシと呼ばれる駐車監視員の二人が主役ですが、そのほかにアイドルとマネージャー、ミュージシャンを目指す男性、主婦、サラ金屋といったメンバーが入り乱れて物語が進んでいきます。こういう群像劇のようなスタイルはもともと意識されていたのでしょうか?
■ほりかわ:実はとある舞台があって、その舞台を映画化したいという案もあったんです。結局はその舞台とは関係ないストーリーになったんですけど、その舞台が色々な人が登場してくる群像劇だったから、そのスタイルだけ残った感じですね。
■真田監督:タレントとマネージャーや、高速バスに乗って地元に帰ろうとしている若い男性と見送りの主婦、といった登場人物の設定はだいたい僕の方で考えて、脚本家の太田さんに伝えました。登場人物たちが交差して物語が展開していくというストーリーは、太田さんが作り上げてくれました。
真田監督とほりかわさんは昔からの仲だということですが、どのような仲なんでしょうか?
■真田監督:1999年の舞台「東海道四谷怪談」で出会ったんですよ。もう20年前かな? 僕の初めての短編映画もほりかわさんが主演してくれたんです。今でも月に一回は会って飲んでますね。
■ほりかわ:僕が98年に新潟から上京したから、その次の年に会ってるってことだよね。本当にしょっちゅう会ってるけどまったく飽きないし、彼に対して嫌だなって思ったこともないんですよ。
ほりかわさんは先ほど真田監督を監督としても信頼できるとおっしゃってましたが、真田監督はほりかわさんを俳優としてはどういう俳優だと思っていらっしゃいますか?
■真田監督:けっしてうまい俳優さんではないと思うんです、セリフは噛むし。でも本当に彼にしか出せないオンリーワンの魅力があって、それはすごい武器なんですよね。今作のシゲは女好きで仕事もクビになるダメ人間なんですよ。でも、ほりかわさんが演じたことで、人間味のある愛すべきキャラクターになったと思いますね。
夜のシーンが多くて、撮影も大変だったのでは?
■真田監督:本当に大変でしたね。予算も少ない中で、夜に照明を使って少ないスタッフで撮影をするのがこんなに大変なのかと。事故が起きなかったのが奇跡でしたね。
■ほりかわ:プロデューサーがいたら確実にキレられて、ストーリーも変わってたかもね。
新宿でのロケはどうでしたか?
■ほりかわ:新宿中央公園でのロケは大変でしたね。時間との戦いでもあったし。
■真田監督:最初は歌舞伎町で撮りたいっていう希望もあったんですけどね、今回はいろいろあって断念して、西新宿が中心になりました。でも、僕が“ザ・新宿”だと思っている場所でも撮影ができたので、そこは思い出深いですね。
新宿に思い入れがおありなんですか?
■真田監督:新宿はね、ほりかわさんと何度朝まで過ごしたかわからない街ですからね。この街でどれだけ泣いてどれだけ笑ったか。
■ほりかわ:僕もやっぱり新宿が東京で一番好きな街ですね。
■真田監督:あの雑踏の猥雑な感じがたまらないですよね。もしパート2をやれるのなら、新宿のよりディープな場所でも撮影したいですね。
監督は蜷川カンパニー出身ですが、監督や演出をするうえで蜷川幸雄さんの影響はありますか?
■真田監督:劇団にいた当時は蜷川さんの言っていることが全然わからなかったんですけど、監督をするようになった今になってわかるようになりましたね。
■ほりかわ:真田も現場で灰皿投げるもんね。
■真田監督:投げないよ!(笑)蜷川さんの教えの中では「作品の冒頭で観客の心を掴まなければいけない」っていうのは意識していますね。それと、僕は蜷川さんの「マクベス」が大好きなんですけど、そういう100人以上の人物が登場するような群集劇をいつか作りたいという希望はありますね。
監督は伊丹十三監督にも影響を受けたとも聞きました。
■真田監督:『マルサの女』みたいな世間の制度に切り込みつつ、笑えるような映画を作りたいという思いもあります。この『ミドリムシの夢』でも、駐禁を切られると免許の点数が引かれる制度の抜け穴に関するセリフもあるんですが、その良し悪しについては特に言っていないんです。そこは観客の方の判断に委ねるので、この制度について考えるきっかけになっていればいいなと思いますね。
ほりかわさんは、影響を受けた監督や演出家さんはいらっしゃいますか?
■ほりかわ:僕は25歳から役者を始めたんですけど、最初は寅さんやチャップリンに憧れてましたね。演劇人の中では、松尾スズキさんが好きで影響を受けているかもしれないですね。でも、共演した俳優さんにはみんな影響を受けてるかな。毎回「みんなすげーなー、負けらんねーなー」と思いながらやってます。
共演した方といえば、今回ダブル主演となった富士たくやさんはどういう方なんですか?
■ほりかわ:ポケーッとしてる人です(笑)。
■真田監督:まさに(笑)。でも、富士さんもオンリーワンの魅力を持った人なので、富士さんとほりかわさんのそれぞれの魅力がぶつかりあって、いい味が出たと思いますね。
監督が映画を作る上でいつも一番大事にしていることはなんでしょうか?
■真田監督:お客さんが楽しんで帰ってくれるようにということですね。この映画を観て、少しでも楽しんで気分が上がってくれればいいなと思っています。少しだけでもいいので普段より楽しい気分になってくれて、明日頑張ろうと思ってくれるといいなと。あとは、役者さんが魅力的にうつっているように、それは意識していますね。
今後、またご一緒に映画を作りたいといった予定や希望はありますか?
■ほりかわ:やりたいよね、まだ具体的には何もないけど。
■真田監督:まずはこの作品をヒットさせないと。今回は夜の新宿の路上を舞台にした作品だから、レイトショー上映にこだわって、わがままを言わせてもらったんです。多くのお客さんに仕事帰りにでも観てもらって、明日への元気をもらってくれるとうれしいですね。
役者二人の意気投合に端を発したこの映画『ミドリムシの夢』。お金を出してくれるはずだった社長はいつの間にかフェイドアウトし、結局は真田幹也監督ら自身で製作資金を集め、撮影に至ったという。配給・宣伝も自分たちで担当し、劇場ブッキングやチケット販売も手がけているという二人からは、作品に対する並々ならぬ思いと上映劇場や上映時間にいたるまでの強いこだわりが感じられた。20年来の仲だという真田監督とほりかわさんの息のあった掛け合いも楽しく、撮影や公開に至るまでの苦労話をしているにも関わらず、笑いの絶えないインタビューだった。
取材・文:松村 知恵美