ニューヨークにある日本人高級クラブで働く日本人女性・マキの物語を、イラン人女性監督が描いた映画『MAKI マキ』。この作品で主人公のマキを演じたのが、モデルやアートディレクターとして活躍するサンドバーグ直美さんだ。ニューヨークの日本人コミュニティーをイラン人監督が描くという複雑な背景を持つこの作品で、初めての演技、初めての映画主演に挑んだ彼女にインタビューを行った。
この映画に参加されることになったきっかけを教えてください。
■サンドバーグ直美:きっかけは(恋人のトミーを演じた)ジュリアンの妹さんからの紹介なんです。ジュリアンはその時に既に出演が決まっていたので、「こういう映画があるんだけど、監督に会ってみない?」と聞かれて、ナグメ・シルハン監督にお会いすることになりました。
初めての映画主演でこのようないろいろなカルチャーが入り混じった作品に出られるということで、プレッシャーはなかったですか?
■サンドバーグ直美:これまではモデルをしていたので、演技の経験もなかったんです。最初は私でいいのかと思っていました。でも、台本を読んだら、マキの気持ちがよくわかって、この役だったら私にもできると思ったんです。ナグメ・シルハン監督もとても素敵な方で、会った時から落ち着いて話せたので、この作品であれば出演したいと思いました。
マキのどういう部分に共感したのですか?
■サンドバーグ直美:高校生までずっと日本で育ったんですが、ニューヨークの大学に進学したんです。その時の自分にマキの気持ちが重なった部分がありましたね。アメリカンスクールに行っていたので言葉の問題はなかったんですが、ずっと日本で育ってきたので、自分の考え方やマインドが思っていた以上に日本人だということに気づいて。それで最初のうちは苦労しましたね。
役作りはどのようにしたのでしょうか?
■サンドバーグ直美:監督から役作りはやるなと言われたんですよね。演技のワークショップなどにも行っていたんですが、監督と初めて会った時にビデオを撮って、「あなたはこの状態のままがいい」と言われたんです。それで、準備としては役に近い映画を観たりして、マインドをマキに近づけていくようにしていましたね。菊地凛子さんの出演されている映画とかは、かなり見ましたね。
監督はマキについてどのように語っていましたか?
■サンドバーグ直美:一言で言うとピュアな女性。映画の中でのさまざまな経験をとおして自分を見つけていく女性だというふうに言われましたね。でも、役柄についての指導はあまりなかったんです。ジュリアンとの相性がすごくいいと言われたので、そこを活かして欲しいと言われました。
ジュリアンさんの妹さんから紹介されたということですが、ジュリアンさんとももともとお友達だったんですか?
■サンドバーグ直美:妹さんとはニューヨークの大学時代に知り合ったんですけど、ジュリアンとは今回初めて会いました。でも、育ちが似ている部分もあったので、話もあったし、ジュリアンとの相性の良さは自分でも感じましたね。
直美さんがジュリアンさんと一緒に映画に出ることが決まって、妹さんは喜んだんではないですか?
■サンドバーグ直美:それが、出演が決まった後で、すごく反対されたんです。「自分のお兄ちゃんと友だちが恋人のような関係になってほしくないから、何もしないで帰ってきて!」って(笑)。「キスシーンあるけど大丈夫?」って聞いたら、「映画は観ない!」って言ってました(笑)。
妹さん、複雑な心境だったんですね(笑)。今回直美さんが演じたマキは、ジュリアンさんの演じるトミーを信じて、原田美枝子さんの演じるミカに利用されてしまう役ですよね。ニューヨークの初めての生活の頃を思い出すと、マキの気持ちも理解できましたか?
■サンドバーグ直美:外国での生活で、優しく接してくれる人がいると騙されてしまう気持ちはわかりますね。特にマキは英語もあまりわからないという設定なので、より寂しかったかもしれないですね。
イラン人のナグメ・シルハン監督はなぜニューヨークの日本人を題材に映画を撮られたのでしょうか?
■サンドバーグ直美:監督曰く、日本人とイラン人はパーソナリティが似てるらしいんですね。映画も似てる部分があるらしくて、何かシンパシーを感じる部分があるのかもしれないですね。ナグメ監督はアミール・ナデリ監督に師事しているんですけど(※)、ナデリ監督に言われて4年間ほど日本とイランを往復して日本のカルチャーを学んだそうです。
※アミール・ナデリ監督は2011年に西島秀俊主演の『CUT』(11)という作品を日本で撮影している。
今回の撮影のほとんどはアメリカで行われたんですよね? プレスによると、18日間という短期間で撮影されたそうですね。
■サンドバーグ直美:そうですね、マンハッタンと、ニューヨークから2時間くらいのウッドストックというところで撮影しました。雪も降ったりしたので、途中で風邪をひいちゃって、大変でした。
普段は日本で暮らしてらっしゃるんですよね?
■サンドバーグ直美:撮影期間中はニューヨーク育ちの中国人のゲイの友人の家に泊まっていたんですけど、お茶漬けを作ってくれたりして、お母さんのような感じでケアしてもらえてありがたかったです(笑)。
原田美枝子さんとの共演はいかがでしたか?
■サンドバーグ直美:すごく貴重な経験で、いろいろ勉強になりました。
原田さんとは撮影期間中、どのように過ごされていたんですか?
■サンドバーグ直美:今回、監督の意図もあって、撮影期間中はあまり仲良くできなかったんです。一見優しいけれど、パワーのあるママさん役なので、普段からも距離をとって、撮影中は緊張感を保って欲しいという感じだったみたいですね。
この作品で海外の映画祭にも参加されたそうですね。
■サンドバーグ直美:ニューヨークのチェルシー映画祭に行きました。レッドカーペットではやはり興奮しましたね。作品を観た人からも「あなたは女優として才能がある!女優を続けなさい」と言われたりして、とても嬉しかったです。
今、モデルやデザインやアートディレクションの仕事など、クリエーターとしての活動も多くされていらっしゃいますが、これからは女優活動が中心になるのですか?
■サンドバーグ直美:実は、女優だけをやっていきたいとはあまり思っていないんです。この作品は自分にあっていると思ったのでやらせていただきましたし、今後もそういう自分にあった作品があれば女優をやりたいと思っています。メッセージに共感できる作品に携わりたいと思っています。
映画の監督をやってみたいというお気持ちとかは?
■サンドバーグ直美:したいです! 美大で映像とかアニメーションを作る勉強もしていました。音楽と組み合わせたりして、世界観を作るのがとても面白いと思いました。
ご自身ではどういう映画作品が好きなんですか?
■サンドバーグ直美:ティム・バートン作品が好きですね。あとは、ウィノナ・ライダーとアンジェリーナ・ジョリーの『17歳のカルテ』(99)とかも好きです。ウェス・アンダーソン作品とか、ビジュアルが美しい作品に惹かれます。
今後、女優としてはどういう作品に出演していきたいですか?
■サンドバーグ直美:インディーズでこだわりのある美しい作品に出たいですね。それと、『アナスタシア』(97)というアニメがあるんですけど、それが今ニューヨークのブロードウェイで上演されているんです。日本にもやがてくると思うんですけど、それにも出てみたいです!
日本とアメリカにルーツを持ち、日本語・英語に堪能で、モデル、アートディレクターとしても活躍しているサンドバーグ直美さん。インターナショナルな背景を持つ彼女だからこそ、さまざまなカルチャーが入り混じる本作の主演にふさわしいと言えるだろう。日本、女優、映画といった枠にとらわれず、世界のさまざまな場所で自分らしい作品を作り上げていく、クリエイターと呼ぶのがふさわしい女性だった。軽やかなスタンスでジャンルを横断した作品作りに携わっていくであろう、彼女のこれからに注目していきたい。
【取材・文】松村知恵美