日時:10月15日(月)
場所:HMV&BOOKS 日比谷コテージ
登壇者:三上延先生、三島有紀子監督
鎌倉の片隅にあるビブリア古書堂。その店主である篠川栞子(しのかわ しおりこ)が古書にまつわる数々の謎と秘密を解き明かしていく国民的大ベストセラー、三上延・著「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズ。その実写映画化となる『ビブリア古書堂の事件手帖』が11月1日(木)に公開となる。公開に先駆けて、10月15日(月)にHMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEにて、スペシャルトークショーが開催され、原作者の三上延先生、そして本作のメガホンをとった三島有紀子監督が登壇した。
公開間近となった本作への心境を聞かれた三島監督は「感慨深い気持ちでおります」と話し、映画化の経緯を聞かれると「自分が文学好きだというのをプロデューサーが知っていて、お話を貰いました。古書も好きですし、栞子さんのキャラクターも素敵だったので、お引き受けしました」とコメント。それを聞いた三上は「古書がメインで、本が重要なファクターになっているというのを(映画は)汲んで貰っていました。言葉にしづらい雰囲気もしっかり描かれていて非常に良かったです」と映画を絶賛した。
古書堂のセットのこだわりを聞かれると、三島は「本当にそこにビブリア古書堂が存在するように作ろうと美術部と話し合い、全国の古書堂を巡ったり、置いてある本に関しても本物を借りてくるなどリアルを目指しました」と本好きの監督ならではのこだわりを明かした。実際に映画を観た三上は「背板が無い本棚というのが、空間が広く見えていいですよね」と問いかけると、三島監督は「美術部に作って貰った時には背板があったんですが、本越しに栞子さん達が見える空間にしたいということで抜いてもらいました」と制作秘話を語った。更に三上は栞子の座るカウンターの下にも古書が置かれている点にも言及し、そのこだわりを称賛。三島もそうした部分に気づいて貰えたことに感激していた。
主人公である栞子を演じた黒木華に対しての印象を求められた三上は「元々、黒木さんは好きな女優さんで素敵だと思っていたので、納得のキャスティングでしたね。実際に映画を観ても、いいもの見せて貰ったなという感じでした」と黒木の演技をベタ褒め!作品の打ち合わせの際に苦労などは無かったか?と聞かれると、三島は「三上先生と何度か打ち合わせしましたが、楽しかった思い出しかない」と嬉しそうに話し、三上も「三島監督は本当に良く本を読んでらっしゃって、僕より読んでいるかもしれない」とお互いの本好きが功をそうし、良い関係が築けたと話した。
三上さんへ原作を執筆する際、題材となる本を選ぶ基準について聞かれると、「話にして面白いかどうかということと、(実際に)読まなくてもその面白さが伝わるかどうか、栞子の説明だけでニュアンスが伝わるかどうかという基準で選んでいました。私自身が面白いと思っている部分を栞子さんに語って貰っているので、それが上手く伝わっているといいなと思っています。」と創作の秘密を答えた。
更に映画ならではのオリジナルとなる“過去パート”に関する質問に対しては、三島が「栞子さんの知識によって(絹子たちの)人間ドラマが紐解かれるときに、そのドラマがきちんとあった方がいいなというのが1つ、また古書は人の手を渡って、思いが積み重なっていくもの。その思いが誰かに届くという奇蹟的な瞬間をしっかり描ければと思いました」と狙いを語った。それに対して三上は「原作ではそんなに詳しく作ってはいなかったんです。物語として余白を残していた部分だったのですが、それが鮮明に表れたので、良かったなと思いましたね」とコメント。原作者と監督というそれぞれの立場から“過去パート”の魅力が語られた。
また、今回の主題歌であり描き下ろしで映画の世界観を彩った、サザンオールスターズの「北鎌倉の思い出」について聞かれた三上は「中学生の頃初めて買ったLPがサザンだったので、原さんが“ビブリア”と言うだけで胸が詰まる思いでしたね」とコメント。三島も「作品にお手紙を付けて桑田さんと原さんにお渡ししたんですけども、映画が目指したことが桑田さんに伝わって、桑田さんの身体を通して出てきた言葉がこの歌詞なんだ!というのが一番の感動でしたね。また、それが映画にぴったりの原さんの声で歌われていることも非常に感慨深かったです」と2人とも楽曲への思いを語った。また、三島は「曲だけを聞くのと、映画の終わりで曲を聴くのでは印象が違うと思うので、是非劇場で聞いてみてほしいです!」と映画と主題歌との合致具合についても見どころだと話した。
会場からの質問で、2人の共通点や共感しあえるものはありますかという質問に対し、三上が「(監督とは)年齢が近くて、観てきたものや読んできたものが似ていたので、この方であればお任せできるなと思いました」とコメント。それに対し三島は「打ち合わせでは色んな本の話を2人でしていたので、“栞子さん”と“栞子さん”の会話に近かったですね(笑)。そういう部分で好きなものをどこまでも語り合えるというのは共通点ですかね。三上さんが小説家という身を削って作品を書かれているように、自分も身を削って作品を撮っているので、そうした部分も共通しているなと思いましたね」と回答し、本作の重要なテーマである“本”が2人の創作者にとっても重要な共通点だった事が分かった。
MCから「持ち主が変わっても、その人の歴史や想いは受け継がれていく」という作品のテーマに絡めて、本や物を通して何かを受け取った瞬間はあるかという質問に対して三島は「終戦前から終戦後にかけての父の日記を読んだのですが、8月15日のページを読んだときは心臓が止まる気持ちで、泣きましたね。そうして、亡くなった人の思いが届くこともあるんだなと思いました」と家族との深いエピソードを語り会場を沸かせた。
イベントの最後に三島が「ビブリア古書堂の事件手帖を映画化出来たことは私の宝物となりました。全てのシーンにおいて“繋がった瞬間”というものを大事に作りました。人と人、人と本、人と場所、思いと思いであったり。そうした色んなものが繋がる瞬間を見つめながら撮りましたので、そうした部分を楽しんで頂けたらと思います」と語り、イベントは大盛況のまま幕を閉じた。