映画『クレイジー・フォー・マウンテン』ジェニファー・ピードン監督インタビュー

映画『クレイジー・フォー・マウンテン』ジェニファー・ピードン監督インタビュー
提供:シネマクエスト

ドキュメンタリー映画『シェルパ』などを手がけた映画監督ジェニファー・ピードンとリチャード・トネッティ率いるオーストラリア室内管弦楽団がコラボレートし、地球にそびえる偉大な山々とその山に挑む人間たちの姿を、クラシックを中心とした荘厳な音楽と共に描いたネイチャードキュメンタリー映画『クレイジー・フォー・マウンテン』。
オーストラリアではオーストラリア室内管弦楽団の生演奏のなかで映像が流れるライブバージョンの「Mountain Live」と映画バージョンの「Mountain」(『クレイジー・フォー・マウンテン』)が公開され、ドキュメンタリー映画としてナンバー1のヒットを記録した。
この作品を手がけたジェニファー・ピードン監督にインタビューを行い、山への思いや、リチャード・トネッティや作家のロバート・マクファーレン、俳優のウィレム・デフォートのコラボレーションなどについてインタビューを行った。

この作品はオーストラリア室内管弦楽団とのコラボレーションですが、最初にこの企画を聞いた時、どのように思いましたか?

■ジェニファー・ピードン監督:このオーストラリア室内管弦楽団のコンサートには何年も足を運んでいて、もともと大好きな楽団だったんです。この楽団は写真家やダンサーなどと非常に面白いコラボレーションをやることで有名ですし、お話をいただいてとてもありがたいと思いましたし、うれしかったですね。

映画と音楽のコラボレーションということで、ライブバージョンの「Mountain Live」と映画の「Mountain」(本作『クレイジー・フォー・マウンテン』)の2種類があるということですが、どのような違いがあるのでしょうか?

■ジェニファー・ピードン監督:映像はまったく同じものを使用しています。コンサートでは映画の映像の後ろで楽団が生演奏していますが、映画では録音された音源が流れます。違いと言えば一点だけ、コンサートの方はバイオリンソロが6分長くなっています。その部分では映像がなく、ブラックスクリーンの中でリチャード・トネッティさんのバイオリン・ソロが流れる形となります。

その6分長いというのは、どの箇所になりますか?なぜライブでは6分長いのでしょうか?

■ジェニファー・ピードン監督:氷が潮で満ち引きしている箇所があるんですが、そこでベートーベンのバイオリンコンチェルトが流れるんですね。でも映画の中では、バイオリンコンチェルトの二楽章までしか使っていないんです。ただ、コンサートで演奏するには観客はそのコンチェルトをフルに聞きたいだろうということで、全楽章を演奏する形になっています。映画の中では2楽章までにさせて欲しいとリチャードを説得して、曲は2楽章で終わっています。でも、クラシック音楽に詳しい観客が映画を見たら、途中で音楽が切れてしまったと思うでしょうね。今回、既存のクラシック楽曲を使うにあたり、それらの曲をフェイドアウトさせたりせず、まるごと1曲使うことが大切だったんですね。ただこのシーンに関しては、唯一例外で、ここで切ってもシーンが完結するということで、この曲だけ2楽章までしか使っていないんです。

この映画をどのように製作されたのでしょうか? どの映像にどの音楽を合わせ、どのナレーションを合わせるかという組み合わせはどのように決められたのでしょうか?

■ジェニファー・ピードン監督:とても複雑で入り組んだ作業でしたね。まずは映像をたくさん撮影し、また他の映像素材もたくさん集めて、とにかくいろいろな映像を見ていきました。音楽に関して言うと、オーストラリア室内管弦楽団がこれまで録音した曲の音源をひととおり聞き、それ以外のクラシック音楽もいろいろ聴きながら、全体構成を作っていきました。クラシック曲はどうしても尺が長い曲が多いので、簡潔にまとまっていて、盛り上がる曲を探すとどうしてもビバルディが増えてくるんですね。それで結果的にビバルディが3曲入ってしまいました(笑)。

ナレーションで紡がれる言葉はどのように決められたのですか?

■ジェニファー・ピードン監督:コンサートはともかく、映画作品としてまとまりをもたせるためにナレーションが必要だと考えました。そこでロバート・マクファーレン氏の「Mountains of the Mind」という本が思い浮かび、ロバートにもコラボレーションしてもらうこととなりました。まず彼の本「Mountains of the Mind」の中から、この映画で伝えたいことを言い当てている言葉を私の方でいくつか抜き出しました。そして、彼に私の方に作品のイメージを伝えて、新たな言葉を書き下ろしてもらいました。

監督ご自身の山に魅力を感じていったきっかけ、山の思い出などを教えてください。

■ジェニファー・ピードン監督:もともと家族がアウトドア好きだったんです。それでスキーやキャンプ、トレッキングなどには昔からよく出かけていました。20代に入って映画の仕事を始めた時、カメラクルーとして山に行ったんです。ヒマラヤに足を踏み入れた時は、人生が変わるくらいの衝撃を受けましたね。

その衝撃とはどういうものでしょうか?

■ジェニファー・ピードン監督:エベレストに何度か行っているんですが、山では非常に激しい、困難な環境に身を置くことになります。その壮絶な体験の困難さとその後で得られる経験値というのは他では得られないものですね。前作『シェルパ』の撮影の際にはエベレストで雪崩が起き、撮影に参加していた16人のシェルパが亡くなるというとても辛い経験もしました。雪崩の後、亡くなった方たちの家族と対面した時はとても悲しく、つらい思いをしました。この作品の中には、自分の経験したことや目にしたこと、それらのさまざまなものが詰まっています。

登場している登山家やアスリートたちは作品を見てどのような感想を言っておられましたか?

■ジェニファー・ピードン監督:とても好評でしたね。山の描き方や登山家の方の描きかたがこれまで山を描いた作品と違うということで、応援してくれているようです。みなさん、この映画で言おうとしていることに共感してくれたんだと思うんです。なぜ命を落としてまでもそんな危険なところに行くのか、その理由は彼ら登山家たちも常に考えていることなんですね。その宿命のようなものを描いているところが響いたんだと思います。

この作品には山の名前やアスリートたちの名前や情報などが一切出てきませんが、ここについては載せたほうがいいなどの意見はなかったのでしょうか?

■ジェニファー・ピードン監督:そういう話もありましたね。でもそれを入れると、作品としてうまく繋がらなくなっていくんです。シーンによってはカナディアンロッキーやヒマラヤなど、ひとつの山の映像が続くところもありますが、シーンによってはアラスカから南極へ、メキシコへとさまざまな山の映像が連続するシークエンスもあります。常に山の名前などを文字で入れていては、伝えたいこととずれていきますから。この作品はひとりのアスリートの姿や具体的な山の様子を描くのではなく、大いなる“人間と山の関係”や、“なぜ人は山に惹かれるのか”という登山家たちが抱える命題を、グローバルな、そして普遍的な視点から描きたかったのです。

ナレーションを担当したウィレム・デフォー氏とは、作品についてどのような話をしましたか?

■ジェニファー・ピードン監督:彼はレコーディングの前に何度かこの映像を観ていたんですが、録音の前日にもベッドの中でiPadで映像を見直していたらしいんです。その時、映像を見ながら知らず識らずのうちに「うわーっ、だめだ、やめろー!!」などと叫んでいたと奥さんに指摘されたそうですよ(笑)。それだけ現実味のある体験として楽しんでくれたようです。それと、ロバート・マクファーレンの言葉にも深く共感してくれました。音楽、映画、文学という各分野のアーティストのコラボレーション作品だという点も気に入ってくれたようです。

2015年の映画『シェルパ』で英国アカデミー賞にもノミネートされ、冒険家や山などの自然に迫るドキュメンタリー監督として定評のあるジェニファー・ピードン監督。エベレストなどの山々で壮絶な体験をし、それでもまだ山を舞台に撮影を続ける彼女だからこそ、“なぜ人は山に惹かれるのか”という普遍的なテーマを、素晴らしいドキュメンタリー映画として描くことができたのだろう。この荘厳な山々の風景とオーストラリア室内管弦楽団の壮麗な音楽は、ぜひ大スクリーンで堪能して欲しい。素晴らしい映像体験を味わうことができるはずだ。

【取材・文】松村知恵美

最終更新日
2018-07-13 17:53:19
提供
シネマクエスト(引用元

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