第二次世界大戦中、人々にとって“命の水”であるウイスキーが枯渇してしまっていた時代に、スコットランドの沖で大量のウイスキーを積んだ貨物船が座礁した事件の実話がベースの映画『ウイスキーと2人の花嫁』。
全編スコットランドでロケが敢行され、当地の名所をはじめとした貴重なロケーション撮影による美しい映像、そして美味しいウイスキーが飲みたくなる幸せ感満載で描いたのは、スコットランド出身のギリース・マッキノン監督。2018年2月17日の公開を控え、映画、TVドラマの監督・脚本家として活躍するほか、マンガや絵画も描いているという氏に話を伺った。
1949年の映画『Whisky Galore!』をなぜリメイクしようと思ったのですか?
■ギリーズ・マッキノン監督:(プロデューサーの)イアン・マクリーンさんはもともと映画業界の人ではないのですが、この映画をリメイクしたいという情熱を燃やしていました。彼が私を監督に招いてくれたのですが、私にとってもスコットランドの古典映画を作り直す、良い機会を与えてくれたと思っています。
物語のどういう部分に魅了されましたか?
■ギリーズ・マッキノン監督:“家族”というものに興味があります。これまで家族についての映画を作ってきました。この映画もそういった側面があります。中心は郵便局のマクルーンさんの家族。ふたりの娘の縁談で、彼は困難を抱えている。そこに家族のドラマが生まれます。もうひとつは、この映画が史実に基づいている点。大量のウイスキーがアメリカに向かっていて、船が座礁。当時は戦争中だったので、ウイスキーが品薄で手に入らない。これは島民たちにとって悲劇なんですね。もともとスコットランドの人たちは海賊だったから、「あのウイスキーは俺たちのものだ!」と手に入れようとする。そこで制服を着た当局の人たちとの知恵比べ。制服は権威の象徴。島の人たちは権威が嫌いなんです。
監督もウイスキーをよく飲みますか?
■ギリーズ・マッキノン監督:実はワインが好きなんだ(笑)。特に赤ワイン。友人が来るとウイスキーを飲みます。ウイスキーは感情を奮い立たせるもの。だから、人とのお付き合いではウイスキーかな。(映画の舞台の)トディー島は架空の島だけど、“トディー”とはウイスキーのこと。ウイスキーは万能薬だと思われているので、それがないとみんな悲嘆に暮れてしまう……。
キャストについて教えてください。
■ギリーズ・マッキノン監督:ジョセフ役のグレゴール・フィッシャーは、スコットランドの歴史的なものを描く作品にはほとんど出ている、といってもいい俳優。ふたりの娘はイングランド出身の若手女優です。インターナショナルな意味では、ワゲット大尉役のエディ・イザードがいちばん有名でしょう。彼は大変人気のあるコメディアンです。このようにイングランド人がスコットランド人を演じたり、その逆も然りで、映画ではよくあることです。でも、求めているのは国籍ではない、ひとつの共同体としてのまとまりを重視しました。
宗教上の安息日がでてきますが、現代ではどう捉えられているのでしょう?
■ギリーズ・マッキノン監督:いまだに遵守している人もいますが、変化しているのも事実です。今はカフェが営業していたり、緩くなっている一面もあります。こんなことがありました。あるイタリア人夫婦がフィッシュ&チップスの店をオープンして安息日も営業していたら、2度、その店が火事になったんです。「神の怒りだ」なんて言う人もいましたが、誰かが放火したのかもしれません。
スコットランドの島の特殊な事情を描いていながらも、根底には普遍的なテーマがありますね。
■ギリーズ・マッキノン監督:「特殊であればあるほど普遍的だ」とよく言われます。父親と娘の結婚問題もそうですし、厳格な母親と気弱な息子の関係もそう。世界のどこでも共通する、普遍的なものなんです。
【取材・文】川井 英司