日時:12/23(土)
場所:シネマート新宿 スクリーン1
登壇者:松江哲明
アメリカを愛するあまり、たった独りでパキスタンに潜入し<ビンラディン捕獲作戦>に挑んだ男がいた――全米を仰天させた実在のキテレツオヤジを、ハリウッドきっての愛され俳優ニコラス・ケイジが熱演した実話コメディ『オレの獲物はビンラディン』が、シネマート新宿、シネマート心斎橋にて大ヒット公開中。本作の大ヒットを記念して、特別トークショーがシネマート新宿にて開催された。ゲストに映画監督の松江哲明が登壇した。
今年は日本で、5本のニコラス・ケイジ主演作が日本上陸。まさに「ニコケイ・オブ・イヤー」であり、この締めくくりの一本として、鬼才ラリー・チャールズ監督最新作『オレの獲物はビンラディン』が先週末に公開された。12/23(土)、本作のヒットを記念して、大のニコラス・ケイジ好きである松江監督がシネマート新宿に登壇。映画とニコラス・ケイジの魅力を余すことなく語った。
最初に本作の感想を聞かれると、松江監督は、「『オレの獲物はビンラディン』のことは今年のしたまちコメディ映画祭で知って、観たいなと思っていたんです。ニコラス・ケイジはもちろんですが、ラリー・チャールズ監督の最新作ということで、期待していました。観た感想は期待通りです!冒頭で、この映画は真実とそれ以外を含みます、というテロップが出てくるけど、その通りめちゃくちゃで唯一無二ですよね。盟友のサシャ(・バロン・コーエン)と組んだ『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』や『ディクテイター 身元不明でニューヨーク』といった彼の得意とするフェイク・ドキュメンタリー・スタイルではなく、非常にオーソドックスな撮り方をしているのも面白かった。好きなシーンとしては、ゲイリーとマーシとのくだりは全部好きですね。お互いに年をとってきて、もう若くない。だけど彼らの間には年齢なりの親しみや色気、優しさがある。ゲイリーは困った人だけど、純粋なところがある。ラリー・チャールズ監督の良さって、頑固で保守的な人が、外の世界に触れて変わっていくところだと思うんです。はじまりと終わりの落差というか。映画の最後の方に登場するビンラディンですが、実は、ゲイリーと対になっていますよね。二人とも、すごく思い込みの強い人同士で、よく似ている。最後の戦いのシーンを見ると、監督の意図がよく分かります。その俯瞰の距離感がとても良い。ほかの作品もそうだけど、彼の作品は一見、どぎついことやっているのだけど、どこか温かいんです」と語った。
また、「ニコケイ・イヤー」を振り返り、「オススメは『ドック・イート・ドック』と『オレの獲物はビンラディン』ですね! この二本は、ニコラスの過剰さが良く出ている作品だと思います」と述べた。また、日本でニコラス・ケイジのような俳優はいますか?という質問には、「ニコラス・ケイジはニコラス・ケイジですね。ニコラスって、世界的に知られているスターで、独特な地位を確立していますよね。『赤ちゃん泥棒』や『死の接吻』など、彼にしか出来ない作品に出演し、『リービング・ラスベガス』でアカデミー賞を受賞して、演技派として認められるんだけど、その後、いきなり『コン・エアー』や『60セカンズ』といったアクション映画に出演したり、ちょっとイマイチなB級映画に出てみたり…。でもちゃんと、『アダプテーション』や『バッド・ルーテナント』『ラスト・リベンジ』みたいな作家性のある映画にも出ている。例えばショーン・ペンなら、彼の作品選びや、やがて監督作を手がけるようになっていく理由がよく分かるんです。でも、ニコラスは、多分そんなことは考えていない。すごくぶち切れた演技をやったかと思えば、『オレの獲物はビンラディン』のようなコメディもやる。来た仕事を全部受けちゃう(笑)そうそう、アメリカ南部が抱える闇を描き出した『グランド・ジョー』という映画があるのですが、彼以外のキャストが地味なので埋もれがちな作品だけど、ニコラス・ケイジの狂気の演技は素晴らしいですよ。これは彼のキャリアの中でも、非常に大事な作品だと思います。B級ばかり出ていると思いきや、こういう作品にも出る。本当に何をしでかすか分からない。だから、気になって彼の出演作を追いかけてしまうんです」。
もし松江監督がニコラス・ケイジを起用して、作品を撮るとしたら、という質問には、「ニコラス・ケイジ自身を撮りたいです! そのままの彼のドキュメンタリーを撮りたい。あんなに興味深い人はいないですよね」と答えた。そして最後に、「B級作品があってもいいけど、ニコラスにはポール・シュレイダー監督のような、強烈な個性の作家と組んで欲しいです。彼は狂気の中にいる人を表現するのが上手いので、もっとそれを深めていって欲しい。『バッド・ルーテナント』みたいな名作のリメイクも、いいかもしれない。若い作家というよりは、ベテランの作家と組んで欲しいな。若い監督はニコラス・ケイジのようなスターを前にすると緊張しちゃうからね」と、今後のニコラス・ケイジに大きなエールを送った。