映画『52Hzのラヴソング』ウェイ・ダーション監督インタビュー

映画『52Hzのラヴソング』ウェイ・ダーション監督インタビュー
提供:シネマクエスト

『セデック・バレ』や『海角七号 君想う、国境の南』などで知られる台湾のウェイ・ダーション監督。新作『52Hzのラヴソング』は、台湾の人気バンド「宇宙人」のシャオユーや元「棉花糖」のシャオチョウら人気アーティストを主演に迎え、バレンタインデーの1日に起こる恋物語を描くミュージカル映画だ。タイトルにある“52Hz”というのは、世界で一番孤独なクジラが発する周波数を意味している。ほかのクジラと周波数が合わないため仲間とコミュニケーションが取れず大海を一匹でさまよう実在のクジラをモチーフにしているのだ。これまでの作風とはまた違う、このキュートな新作についてウェイ・ダーション監督にインタビューを行った。

とてもハッピーな作品で、見ている最中もずっと幸せな気持ちでした。台湾ではこのようなミュージカル映画というのはよく作られているのでしょうか? 監督ご自身はミュージカルはお好きなんですか?

■ウェイ・ダーション監督:台湾ではミュージカル映画はほとんどないですね。僕もミュージカルが好きなんです。一番最初に観たミュージカルは「屋根の上のバイオリン弾き」ですね。映画では『シカゴ』、『ムーランルージュ』、『レ・ミゼラブル』など、好きな作品も多いです。

台湾ではこのミュージカル映画にどのような反応でしたか?

■ウェイ・ダーション監督:実は台湾では上映前の受けがあまりなかったんです。「台湾製作のミュージカルってどうなの?」と。ミュージカルを受け入れる下地が出来上がっていなかったんですよね。でも、作品を見た後はとても気に入ってくれる人が多かったですね。この映画はすごく見応えがあって、何度か観るうちに歌詞の深い意味など、いろいろなものが見えてくると。それで一緒に歌いたいという意見が多かったので、観客の皆さんと一緒に歌いながら映画を観るという“カラオケ上映”を企画したらこれが大好評で、チケットも即完売となりました。

タイトルにある“52Hz”は、誰ともコミュニケーションがとれない孤独なクジラの周波数を意味するそうですね。監督ご自身がこのクジラのエピソードを最初に聞かれた際、どのような感想を持たれたのでしょうか?

■ウェイ・ダーション監督:最初に思ったのは、孤独なクジラがかわいそうだなということですね。でもその後、これは使える!とうれしく思いました。ちょうどこの映画の人物描写に動物的なキャラクターを取り入れたいと思っていたんです。花屋のシャオシンを演じるシャオチョウは153センチと小柄で猫みたいでしょう。都会で生きている野良猫のようなキャラクターで、みんなと仲良くなりたいけれど、ちょっと警戒して人と距離をとっている部分がある。じゃあそんな女の子に対する男の子はどういうキャラクターがいいのかなあと考えているときに、この話を聞いたんです。それで、これはぴったりだと。しかも、シャオアンを演じるシャオユーは183センチでまるで鯨のように大きくて、ここの落差もあって面白いなと。とってもタイミングがよく、うれしく感じましたね。

今回、メインのキャラクターとして歌手の方々が出演されていますが、彼らを選んだ理由はどこにあるのでしょうか?

■ウェイ・ダーション監督:彼らは、舞台に立ち慣れている人たちなんですよね。見た目は平凡に見えるんですけど、舞台に立つとすごくオーラを放つ人たちなんです。それで、彼ら自身のキャラクターも映画の中のキャラクターに近い。普段の自分を演じていればいいというところが、彼らを選んだ理由です。

実際、出演されているアーティストの方が作った曲も使われているそうですね。

■ウェイ・ダーション監督:駐車場の車の上でダーハー役のスミンが歌い、ミッフィーが演じている恋人のレイレイが泣くというシーンですね。ここにはもともと作曲家が作っていた曲があったんですが、それを撮影してもどうしてもしっくりこなかったんです。それで、スミンに「あなたの歌で、聞いた彼女が思わず泣いてしまうような歌を作ってください」とリクエストをして、あの曲が出来上がりました。

なぜ今、ミュージカル映画を作ったんですか?

■ウェイ・ダーション監督:特に深い理由はないんですよ。こういう作品も面白いですからね。私もリラックスして映画を作ってみたかったんです(笑)。

ミュージカル映画の撮影というのは、普通の映画の撮影とは違ってくるものでしょうか?

■ウェイ・ダーション監督:まったく違いますね。音楽の部分について言うと、普通の映画制作とは順番がまったく違うんです。普通の映画作りはまず脚本があって、キャスティングをして、準備、制作、それから撮影をして音楽をつけていくという形なんですが、ミュージカルは先に音楽を作ります。その後、歌ってレコーディングをして、撮影をしてポストプロダクションをしていきます。まったく順序が逆なんです。
撮影に関して言えば、普通の映画はセリフが多いわけで、重要な芝居の部分だけ抑えられればカット割りは自由に決められます。でも、ミュージカルの場合は音楽がありますからね。リズムもあるし、正確にカットを決めて撮っていかないとうまくいかないんです。歌があって立ち位置があって、役者はどう動くのか、カメラはどう追うのか、音楽だけが流れているときはどうするのか、そういったものを全部計算していかないといい映像が撮れないんです。

撮影が一番大変だったシーンはどちらになりますか?

■ウェイ・ダーション監督:オープニングのシーンですね。このシーンは純粋に歌とダンスのシーンで、1曲が3分くらいと長いんですね。でもこの1曲を歌い終えるまでに、キャラクターや設定を観客に理解させないといけない。バレンタインデーで、花屋の女の子がいて、誰と誰が出会う、ということを説明しながら、次の芝居につなぐ必要があるんです。このシーンのために、もともと工事現場だったところにセットを作って撮影したんですが、この3分間で人がどう移動してどう動くか、動線などをすごく研究しました。

監督自身のバックボーン、映画監督になろうと思ったきっかけなどを教えてください。

■ウェイ・ダーション監督:台湾で2年の兵役が終わった後、何をして働きたいかと考えると夢の工場である映画の世界がいいなと思ったんです。その時は監督になれるなんて思っていなかったんですが、仕事をしているとやっぱり監督がいいなあと思い出したんです。やっぱり監督というのは映像を通して自分の考えやものの見方を観客に語ることができますからね。それで努力してショートフィルムなんかを撮っているうちに監督をする機会を得たんですが、いざその立場になると何を撮ればいいのかわからなくなってきて。監督になるために映画を撮るのではなく、撮りたいものを撮るために監督にならなければならない。そういうところを深く考えるようになりましたね。今は撮りたいものがいっぱいあるので、その準備を着々と進めているところです。撮りたいものはいっぱいあるから、それを全部撮れるか、時間が足りるかどうか、それが心配です(笑)。

監督が映画を作る上でいつも一番大事にしていることはなんでしょうか?

■ウェイ・ダーション監督:映画はなんといってもいろんな技術、いろんな人が集まって組み合わせのようなものなんですよね。その中でもあえていうならば、やっぱり役者が一番大事だと思っています。僕は撮影前にまず二人のスタッフを決めます。一人はキャスティング担当、もう一人はロケーションを決めるスタッフ。この二人が決まらないと、映画作りが進んでいきませんから。それでキャスティング担当としっかり話をして、どの役者さんに出てもらうかを決めていきます。映画は役者がひどいと救いようがないんですよね。そのためにも、映画を作る上では役者を選ぶことが一番大切だと思っています。

日本統治時代の台湾をモチーフにした『海角七号 君想う、国境の南』、『セデック・バレ』二部作などで知られ、台湾映画界のヒットメーカーとも言われるウェイ・ダーション監督。6年ぶりの新作で、今までのイメージを覆す軽くポップな作品を作り上げた理由は、「重い作品ばかりではなく、気軽な作品が作りたかった」からとのこと。アーティストたちが歌い踊る台湾製のミュージカルは、名作ミュージカルへのオマージュなど、監督の映画愛を感じさせる一作だ。「撮りたい作品がいっぱいある」という言葉からもうかがえるように、これまでの作風に縛られずに、新たな映画を作っていきたいという監督の意欲が感じられるインタビューだった。

【取材・文】松村 知恵美

最終更新日
2017-12-12 15:10:43
提供
シネマクエスト(引用元

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