「AURORA(オーロラ)」というサーカス小屋で暮らす売れない女優・オリアアキが30歳を前に愛する人を亡くしたことにより精神的に追い詰められ、夢と現実の境がわからなくなっていく様を描いた桜井ユキ主演の映画『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY-リミット・オブ・スリーピング ビューティ-』が10月21日に劇場公開される。写真家でアキのすべてだったカイトを、今飛ぶ鳥を落とす勢いの高橋一生が独特の存在感で演じている。以前に自身が制作した映画『眠れる美女の限界』をセルフリメイクし、本作で商業映画デビューを飾った二宮健監督に、公開を前に話をうかがった。
学生時代から自主映画で高い評価を受け、本作が初の商業映画となります。以前に制作された『眠れる美女の限界』をセルフリメイクされたのはなぜでしょうか?
■二宮健監督:キングレコードのプロデューサーの方が、この話を長編にしませんかと声をかけてくださったんです。それで再びこのストーリーを映画化することになりました。
桜井ユキさんや高橋一生さんとは役作りのうえでどのような話をされたのでしょうか?
■二宮監督:ユキちゃんとも一生さんともいろいろ話しました、キャラクターがどういうことを考えていたのかとか、ざっくばらんな感じで。
夢と現実が交錯する複雑なストーリーですが、どのように撮影されたのでしょうか。今が夢のシーンなのか現実なのか、桜井さんはすべてわかったうえで演じていらっしゃるのですか?
■二宮監督:どれが夢でどれが現実で、というようなことは、撮影を進めるための軸を設けるために全部シナリオに書きました。と言っても、それは解釈のひとつに過ぎず、夢か現実というのは、物語を理解するための一つの記号で、それが結局のところ、本当なのかはわからない、という共通認識を持つように話してました。
前作の『眠れる美女の限界』が内面に入っていくストーリーだとしたら、今作は外に爆発していくような作品だと以前に語っていらっしゃいましたね。
■二宮監督:桜井ユキちゃんがアキを演じるなら、メソメソしているキャラにはしたくなかったんです。パワフルでガンガンいくような女性にしたかったっていう点が、前作との違いの大きな理由ですね。
実はいろいろな物語のパターンの『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY』の脚本を書いていたんです。それで、決定稿となったのは桜井さんが演じるとわかったうえで当て書きしているバージョンなんです。
アキを演じている女優・桜井ユキさんの魅力はどこにあるでしょうか?
■二宮監督:一見キリッとしていて凛々しい顔なんですけど、実はものすごくピュアで純粋な方なんです。
今回もアキという役に対して僕が何も言わなくても自発的にのめりこんでいってくれました。そういうのは誰でもできることではないと思いますよね。
かなり大変な役柄かと思いますが、どのように演技指導をされたのでしょうか?
■二宮監督:語れるような演技指導とかはしていないと思います。本人が腹をくくっている感じは、初日から伝わってきたので。
極彩色で美しいシーンが多かったですね。精神病院でアキがシーツのある屋上で追い詰められていくシーンとかも斬新でした。
■二宮監督:あれは実は、ロケハンで、「ここにシーツがあればいいね」という話をしているなかで生まれたシチュエーションです。撃たれて血が出るシーンで、ただ血がでてくるよりカラフルな血が出た方がなんか面白いねとか言ってるうちに、あんな感じになりました。
高橋一生さんは現場ではどのような雰囲気でしたか?
■二宮監督:とにかく魅力的で格好いいです。本人のなかで役柄を落とし込んでいるので、特に現場で悩むこともなく、アイデアを出し合ったりしてました。「さあ、やろっか」って感じで、スッと本番に臨む感じは気持ち良いです。本当に大好きです。
衣装も素敵でしたね。高橋さんの真っ白な衣装や、ガウンのように羽織った着物なども独特の雰囲気でした。
■二宮監督:あの衣装は一生さんのアイデアです。カイトをどういうルックにしようかと話していた時に、「シンプルで行きたい」と。それで「ふわっとした着物みたいなものを羽織りたい」というアイデアを出してくれて、それでカイトのルックが決定したんです
「オーロラ」というサーカス小屋の世界観もとても面白かったです。美術でもっともこだわられたところはどこでしょうか?
■二宮監督:オーロラの屋上は特に力を入れました。アキとカイトが愛を交わす場所なんですけど、星空の下にベッドがあって、カラフルなネオンが光っていて、アキにとってとても幸せな空間の象徴です。夢の国のようなイメージです。
極彩色の色味なども美しかったです。撮影の際にはどのような撮影方法をとられたのでしょうか?
■二宮監督:撮影を相馬大輔さんにお願いしたんです。僕の想い描いている世界を映像化出来るのは相馬さんしかいない、と考えた僕の希望でした。実際、相馬さんとの現場は刺激的で本当に楽しかったです。物凄いアイデアマンで、たとえば、カメラがぐるぐると回転しているカットが何度もあるんですけど、それは相馬さんが撮影現場にドリルを持ってきて、カメラにつけて、ぐるぐる回転させて撮ってました。毎回現場でみんな爆笑してました。
監督が一番描きたかったシーン、お気に入りのシーンはどこでしょうか?
■二宮監督:全部でワンシーンみたいな映画なんで、全部お気に入りですが、強いて上げるならラストシーンです。最後に畳み掛ける、あのシーンのためにある映画だと思っています。
では、監督ご自身のバックボーン、映画監督になろうと思ったきっかけなどを教えてください。
■二宮監督:小学校の時から映画を撮っていたんですよ。幼稚園の時から映画監督になりたいと周囲には言ってたみたいで。映画が好きになったきっかけはVHSで観た『スター・ウォーズ エピソードIV』です。小さい頃から映画ばっかり観ていて、思えば映画しかないような人生です。
今後はどういう作品を作りたいと思われていますか?
■二宮監督:今25歳なんですけど、30歳まであと5年なんです。そろそろ若さとの決別の時期に入ってきたと思っていて。これからは今まで若気の至りでやってきたことにどう落とし前をつけていくか、それを映画で表現していかなきゃなと思っています。その作業がちゃんと終わったら、もっと社会とリンク出来る風通しの良い映画を撮っていかなくてはと思ってます。
それは、日本映画界で大作を撮りたいとか、世界に出ていきたいとか?
■二宮監督:ハリウッドに行きたいです。でもまあ、撮りたいものが撮れるならどこでもいいです。
今作では撮りたいものが撮れましたか?
■二宮監督:撮れたんじゃないですかね? うーん、撮りたいものが撮れたというよりは、好き勝手させてもらえたという感じですかね。
確かに、二宮監督独自のカラーとか、勢いを感じられる作品でした。もっともっと若気の至りでいろいろやってほしいと思ってしまいます。
■二宮監督:もちろん、まだまだこれで行きますよ(笑)。でも今のスタイルだと3本くらいで飽きられると思うので、次の策を練りつつ、この方向でしばらく遊びたいなと思っていますね。
今後はどういう作品を撮っていきたいですか?
■二宮監督:最近やっとわかってきたのは、僕は“人が何かと決別する話”が好きなんだなということです。今回はアキがオーロラに象徴される、カイトや、堕落した生活、これまで積み上げてきた10年間といったものと決別する瞬間を描いた話です。今までの作品でも無意識に決別を描いていたので、これからもそうなっていくんじゃないかと思います。
監督が映画を作る上でいつも一番大事にしていることはなんでしょうか?
■二宮監督:自分がお客さんだとして、ふと我に帰る瞬間がなく、映画の世界に没入して観られるかということは常に気にかけています。だからもう、ポンポンとテンポよくカットやシーンをつないで作品を次へ次へと展開させていきがちです。こんな映画を作りたいより、こんな映画を観たいが、俄然優先してしまうので、そのために諦めたりしているシーンもあります。でもいつかもっと違うアプローチでドシっと構えた作品も作りたいです。
お話を聞いていて、新世代の監督という感じを強く受けました。
■二宮監督:新世代な感じはうれしいです。今は日本で映画を作らなきゃいけないので、日本映画界ならではの古い考え方とかが邪魔臭いなと思うことも多くて。
自分の映画を作る姿勢を変えた、大学時代の友人に言われた言葉があるんです。音楽をやっている友人にどんな映画を作りたいのか話をしていた時に「それは例えば『E.T.』より面白いの?」と聞かれたんです。環境も違うしそれは比較できないだろうと思ったんですけど「お客さんにとっては一本の映画という点では同じなんだから、『E.T.』より面白いと思ってないんなら作らない方がいいよ」って言われて。それはもう、確かにその通りなんですよね。だからどの作品もそういう意識を持って作ってます。30年以上前に『E.T.』というあの素晴らしい名作が作られている現在に、わざわざ誕生して恥じない意義のある作品を創らなくては、と。それは後出しで作品を発表する者としての最低限のマナーだと思ってます。
1991年生まれの25歳という二宮監督。この作品が商業映画デビューということに臆することなく、自身のビジョンを実現していくというこの姿勢は、まさに新世代の若手監督と言った雰囲気。「若気の至りで作れる映画を今のうちに作りつつ、次の策を練っていきたい」という、未来を見据えた発言からも、これからのさらなる発展の予感を感じることができた。写真撮影の合間に「『ワンダーウーマン』と『スパイダーマン:ホームカミング』、すっげー面白かったですよね!」と熱く語る様子は、失礼ながらまさに映画小僧そのもの。そのあふれる映画愛と共に、このまま勢いよく突っ走って、新たな日本映画の可能性を広げていってほしいと感じたインタビューだった。
【取材・文】松村 知恵美