村上淳や渡辺真起子ら、日本映画を支える実力派俳優たちを多く抱える俳優・クリエーターのマネージメント集団・ディケイド。このディケイドの設立25周年を記念して作られた映画が『AMY SAID エイミー・セッド』だ。
ディケイドの代表・佐伯真吾が企画・製作を務め、三浦誠己、渋川清彦、中村優子、山本浩司らディケイドの俳優たちが顔を揃えている。9月30日の公開を控え、この作品で監督・脚本を務めた村本大志監督に話を聞いた。
ディケイドさんの25周年記念ということで、ディケイドの俳優さんが多く出演されていらっしゃいます。ちょうど40代の俳優さんたちが揃って顔を揃えていらっしゃいますね。どのような経緯でこのキャスト・ストーリーになったのでしょうか?
■村本大志監督:今回は、まず本作でプロデューサーを務めるディケイドの佐伯代表の「俳優たちを全員出したい」という要望があったんです。それで、みんなを同級生という設定にしてはどうかという話になって。同窓会の一夜に起こる出来事を描くことで、一つの場所に主人公たちを集合させる物語にしようということになりました。
この物語は、大学卒業から20年たって40代になったかつての仲間たちが再会した同窓会の一夜を描いています。大学卒業から20年たって40代という年代と、結果を出している同級生も入れば、まだくすぶっている同級生もいるという微妙な年代だと思います。この微妙な年代の物語を映像化するうえでは、どのような演出をされたのでしょうか?
■村本監督:そうですね、みんなの距離感には注意しました。仲がいいのか仲が良くないのかわからない感じを出したいというか。特に、石橋けいさんと中村優子さんの二人の女性同士の微妙な関係性とかね。この二人は、方や独身のキャリアウーマンで雑誌の副編集長、方や同級生と結婚して子供がふたり、郊外で有機野菜を作ってレストランを経営しているという全く違う人生を送っている。石橋けいさん演じる美帆は、雑誌の副編集長というと成功しているよう見えるけれど、美術デザイナーや女優という夢を諦めて自分の希望にはそぐわない仕事をしている。中村優子さん演じる直子も、野菜を作ってレストラン経営というとなんだか一見ロハスで洒落た生活を送っているように見えるけれど、内情は火の車で自身も精神を病みつつある。お互い、一見幸せ風に見えてもちょっとずつ不幸なんですよね。その二人がだんだんとぶつかり合って、お互いの実際の姿が少しずつ明らかになっていきます。
確かに、一見成功しているように思えても、全てにおいて成功して堂々と人生を歩める人というのは、実際にはほとんどいないですね。監督ご自身は40代の頃、どのように過ごしていらっしゃいましたか?
■村本監督:CMを作っていたんですが、映画を作りたくて企画書を持ち込んだりしていましたね。それが実現しそうになったり、クランクイン直前でだめになったり…、今思うとあがいていた時期だったと思います。
CMや映画の監督をされたりと、順調なキャリアを歩まれているように思えてしまいますが、ご自身の中では葛藤があったんですか?
■村本監督:僕は全然順調じゃないですよ。夢が実現しなかった部類の人間じゃないのかな。コンスタントに商業映画を作り続けられたり、自分の企画で希望の映画を作ったりできる映画監督になりたかったんですよね。でもそれが実現できず挫折したという点では、この登場人物たちと似たようなものかもしれないですね。
商業映画を監督していらっしゃるというだけで、夢が実現しているように思ってしまいますが…。
■村本監督:この作品はまあ、厳密に言うと商業映画ではないと思うんです。やっぱり自主制作なんですよね。「インディーズ映画を本気で作ろう」というテーマで作られた、ある意味草野球のような作品ですから。
草野球とはいえ、すごい実力派の選手たちが揃っていますね。
■村本監督:そう、一流の選手たちが揃った草野球なんです。メジャーリーグや日本シリーズではないけれど、実力のある俳優たちが本気でプレーしています。それをずうずうしくも、観客の皆さんにも観ていただこうと言う(笑)。
この実力派俳優たちの中で主人公の朝田役に三浦誠己さんを選ばれたのは、なぜでしょうか?
■村本監督:佐伯さんが脚本を読んで、「三浦で行きたい」と。今回、劇中で朝田はほとんどしゃべらず、周囲の登場人物たちが話す言葉を聞く、“受けの芝居”なんですよね。普段の三浦くんの役柄はヤクザとかチンピラとか、そういう役が多いんです。そんな彼がほとんど喋らず、みんなの芝居を受けて表情で芝居をするというのが面白いと思いますね。
仲間たちの中でたった一人、映画関係にしがみついて売れない俳優をやっている岡本役の山本浩司さんのトリックスター的なキャラクターがとても興味深く感じました。彼にこの役を演じてもらった理由というのがあるのでしょうか?
■村本監督:山本くんってなんだか面白い俳優さんでね。日本でも芽が出ないのにハリウッドスターを目指して拙い英語でセリフの練習をしているような役が成立するのは、やっぱり山本くんだからなんですよね。この映画を観た香港映画のプロデューサーとかが、山本くんに英語の役とかふってくれるといいなあと思いますよね(笑)。
山本さん演じる岡本のマネージャーをしている渡辺真起子さんのキャラクターとの関係性も面白かったです。
■村本監督:そうですね、実は佐伯さんがどうしてもマネージャーの役を出したいと言っていて。真起子さんの役は、周りからは評価されていなくても、自分の担当俳優を信じて盛り立てていこうとする仕事ができるマネージャー役なんですよね。これは佐伯さんたち、俳優をマネージメントする立場の人たちの俳優に対する思いをカリカチュアライズした役柄と言えるかもしれないですね。
若い俳優さんも出ていらっしゃいますが、大学時代の主人公たちに大きな影響を与えたファムファタル的な役柄のエミを演じる柿木アミナさんにはどのように演技指導されたのでしょうか?
■村本監督:実は後で聞いたんですけど、彼女はこの作品で演技を初めてしたそうなんですよ。しかも小学生くらいまで日本で過ごして、中高生時代をフランスで過ごしているんです。夏目漱石の作品の漢字は読めないんだけど、ルソーを原書で読んでいるっていう不思議な子で。だから発声や滑舌がちょっとおかしい部分もあったんですけど、本人がやる気があったんで、半年くらいかけて声出しから始めて稽古していました。相当大変だったんですけど、よく頑張ってくれたと思いますね。
監督ご自身で一番お気に入りのシーンはどこでしょうか?
■村本監督:そうですね、やはりエミの飛び降りのカットかな。ここは象徴的なシーンにしたかったので、一番いい時間を狙ってワンカットで撮ったんです。しかもいさぎよくワンテイクしか撮っていないという。この作品らしいシーンになったと思いますね。
今回は「サムタイム」という吉祥寺に実際にあるお店でロケをされたんですよね。監督が実際に通われていたお店とお聞きしました。
■村本監督:そうなんですけど、別にママと仲がいいというわけでもなく、普通の客の中の一人なんですけどね。ピアノもあって雰囲気もいい、ああいうお店がいいと話したら制作部が粘り強く交渉してくれまして、受けてもらったという感じです。だから店の営業が終了してから深夜の11:30に集合して、12時搬入開始、朝の9時まで撮影、というのを繰り返していました。
かなりのハードスケジュールですよね。実際の撮影前にはどのくらい稽古されたんでしょうか。
■村本監督:撮影の半年くらい前から全員が集まって、公民館みたいなところを借りて、本読みから始まって通し稽古までずっとやりましたね。舞台劇のように撮りたかったので、準備期間はきっちりかけてしっかり稽古しました。
監督が映画を作る上でいつも一番大事にしていることはなんでしょうか?
■村本監督:うーん、……今回でいうと、編集、でしょうか。一箇所で起こっている一晩の話だから、編集でテンポよくしたいと心がけましたね。しかも、今回主要キャストの8人が一箇所に集まっているんです。8人もいると、引きで撮っていると俳優さんの顔が見えないじゃないですか。だから今回はみんながやっていた芝居、セリフを言っている人だけではなく、セリフがクロスした時にそのセリフを受けた人たちのリアクションをちゃんと見せたかったんですよね。そのアクションとリアクションにこだわって編集してもらいましたね。せっかくみんなで稽古して積み上げた芝居をお客さんに見てもらえないと意味がないですし。だから今回は、役者が見せる一瞬の表情の芝居を見せるということにこだわったとも言えますね。
実力派俳優たちが集まって自主制作映画を作るシネフィルたちのその後の物語を描くこの作品、監督からの「一流の選手たちが揃った草野球」という言葉が印象的だった。一流のプレイヤーたちが本気を出して作ったインディーズ映画とも言える本作、こだわりの編集、細かい受けの芝居など、映画を愛し芝居を愛する人たちだからこそ作ることができた、こだわりに満ちた一作と言えるだろう。
【取材・文】松村 知恵美