『ダークナイト』で正義と悪の概念を覆し、『インセプション』で重力を操り、『インターステラー』では時間と空間をつないでみせた。新作を発表する度にその斬新なアイデアと他の追随を許さないビジュアルで観る者を圧倒するクリストファー・ノーラン監督だ。YouTubeの予告再生数24時間で1200万回以上といった記録も珍しくない。今、次回作を最も期待されるノーランが初めて実話に挑んだ最新作、スペクタクル・タイム・サスペンス『ダンケルク』が、9月9日より日本公開となる。『ダンケルク』劇場用本ポスターが完成した。
『ダンケルク』で描かれるのは、相手を打ち負かす「戦い」ではなく、生き残りをかけた「撤退」の物語だ。容赦なく敵勢が迫るなか、陸海空の3視点で描かれるストーリーが同時に進行する。時間描写において他の監督とは一線を画すノーラン監督ならではの緊迫のタイム・サスペンスが、IMAX65ミリ・カメラとラージ・フォーマット65ミリ・カメラによるリアルな撮影による圧倒的な臨場感で描かれる。観客は1人の兵士となって、これまでの戦争映画を超えた、まるで1940年のダンケルクの浜辺にいるかのような全く新たな“究極の映画体験”をすることになる。
そしてこの度、全世界待望のノーラン最新作『ダンケルク』劇場用本ポスターが完成した。砂浜に這いつくばる若き兵士の横顔をアップでとらえた高インパクトなビジュアル。ドイツ敵軍の総攻撃まであとわずか。彼の視点の先にはドーバー海峡、更に先には故郷イギリスがある。地上では空爆によって火花が散り、砂塵が舞う砂浜には兵士たちがうずくまり、海上では、敵軍によって爆破された船から煙が立ち上がる。絶体絶命の地ダンケルクで、時間との戦いを描く緊迫感溢れるポスターは、7月1日(土)より全国の劇場で一斉に掲出。同日1日(土)から、ムビチケカードも発売される。
また徹底した秘密主義で知られるノーランは、『ダンケルク』に影響を与えた11本の傑作映画をセレクトしコメントを寄せ話題に。「私は『ダンケルク』を生き残り(撤退)の物語としてアプローチすることを選択しました。芝居がかった大仰な演出による映像で現実世界の戦闘を見せることの危険性がすぐにわかるはずです。」とノーランは語っており、ノーランの並々ならぬ映画愛と究極の映画体験となる『ダンケルク』への揺るぎない自信が伝わってくる。キーワードは“緊迫感”と“映像表現”だ(全文は次頁)。デジタル化が進む映画業界だが、ノーランはフィルム上映にこだわり続けおり、今回セレクトされた11本の傑作映画は、現在でもフィルム上映を続けるロンドンのBFIサウスバンクで、35ミリまたは70ミリでフィルム上映される。(7月1日から31日まで)
ダンケルクで激戦を繰り広げるパイロットに、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の怪優トム・ハーディ。イギリス本土から船で救出に向かう市民に、オスカー俳優マーク・ライランス。その民間船に救出される兵士役に、ノーラン組常連のキリアン・マーフィー。ダンケルクの若き兵士40万の状況に危機感を募らせる軍人にケネス・ブラナーなど、英国を代表する名優たちが顔を揃える。また観客の案内人となる兵士役で、本作が初主演となるフィオン・ホワイトヘッドが大抜擢。ほんの1年半前は皿洗いをしながらオーディションに通っていたという正真正銘の無名俳優が、ポスターでも鮮烈なデビューを飾った。また、フィオンと同じくオーディションによって映画初出演となる、世界で最も有名な新人俳優ハリー・スタイルズ(ワン・ダイレクション)が、共に生きて故郷に帰ることを誓った若き兵士を演じていることも注目を集めている。
革新的作品で観客を熱狂させ続けてきたノーランが初の実話に挑み、陸海空から圧倒的臨場感で描く最新作。早くも来年のオスカー候補の呼び声もある『ダンケルク』が、映画史を塗り替える新たな傑作になるのは間違いない。
『ダンケルク』に寄せて
皆さんは戦争映画のセレクションを期待するかもしれません。しかし、私は『ダンケルク』を生き残り(撤退)の物語としてアプローチすることを選択しました。ジェームズ・ジョーンズのエッセー「Phony War Films」(イブニング・ポスト:1963年3月30日付)を読めば、芝居がかった大仰な演出による映像で現実世界の戦闘を見せることの危険性がすぐにわかるはずです。ジョーンズ曰く、「戦争が人間性を失わせる」と最初にして最高の手法で描いたのは『西部戦線異状なし』(1930年、ルイス・マイルストン監督)です。あの傑作をもう一度観れば、過剰な戦闘描写や恐怖の表現がより優れていたとは言えなくなるはずです。私にとって、あの作品は、登場人物たちがそれぞれの運命における意義と論理を見つけ出すという、これまでの戦争映画の常套表現に抵抗する力を示してくれるのです。
今回のセレクションは、2つの異なる、しかし重複するカテゴリーに分類できます。『恐怖の報酬』(1953年、アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督)や『エイリアン』(1979年、リドリー・スコット監督)など、緊張感のある確立された古典的な作品から、より最近のハラハラドキドキする『スピード』(1994年、ヤン・デ・ボン監督)や、トニー・スコット最後の監督作品となった『アンストッパブル』(2010年)まで。この映画祭は観客の反応を物語へ導くサスペンスの技巧と手法を探求します。
その他のタイトルは、純粋に視覚的なストーリーテリングの可能性を探求するものです。エリッヒ・フォン・シュトロハイム監督の『グリード』(1924年)やF・W・ムルナウ監督の『サンライズ』(1927年)などの美しいサイレント映画では文字通り”視覚的な”可能性を、そして『ライアンの娘』(1970年、デヴィッド・リーン監督)では、ぞっとするような吹きさらしの浜辺や砕ける波の場面が象徴する、映画に登場する映像の力がそれにあたります。
『アルジェの戦い』(1966年、ジッロ・ポンテコルヴォ監督)はキャラクターに感情移入せずにはいられない、時代を超越して影響を与えるドキュメンタリー・タッチの作品です。映画を観ていると登場人物たちが直面する現実や勝算に夢中になるという単純な理由から、彼らに共感してしまうのです。ヒュー・ハドソンの『炎のランナー』(1981年)は、華麗な映像、複雑な物語、そして敢えて時代に逆行した音楽で英国の傑作となりました。
映画的なサスペンスや視覚的なストーリーテリングの探求はヒッチコックなくして完成しません。『海外特派員』(1940年)での飛行機が海に墜落する様を描いたヒッチコックの才能は、我々が『ダンケルク』で試みたことの多くにインスピレーションを与えてくれました。
これら全ての映画は、35ミリもしくは70ミリのフィルムで上映されます。素晴らしい映画を栄誉あるアナログの姿で鑑賞することができる貴重な機会を、皆さんに楽しんでもらえるよう願っています。
クリストファー・ノーラン
ノーラン・セレクションから浮かびあがる映画体験とは?
☆人間性を問う、「戦争が人間性を奪う」という普遍的なメッセージと映画表現
・『西部戦線異状なし』(1930年)ルイス・マイルストン監督 アメリカ
☆タイムリミット・サスペンス&圧倒的な緊迫感→巧みな技巧により、観客を引き込む。ハラハラドキドキ感。
・『恐怖の報酬』(1953年)アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督 フランス・イタリア合作
・『エイリアン』(1979年)リドリー・スコット監督 アメリカ 撮影はイギリスのシェパートン・スタジオ
・『スピード』(1994年)ヤン・デ・ボン監督 アメリカ
・『アンストッパブル』(2010年)トニー・スコット監督 アメリカ
☆映像で物語を伝える映画表現(映像言語術)
・『グリード』(1924年)エリッヒ・フォン・シュトロハイム監督 アメリカ映画 サイレント
・『サンライズ』(1927年)F・W・ムルナウ監督 ドイツ サイレント映画
→2作品共に映像だけで物語を綴るサイレント映画ならではの映像表現
・『ライアンの娘』(1970年)デヴィッド・リーン監督 英国映画
→寒々しい浜辺、打ち砕ける波など、まるで生きているかのような海の描写、絵の力でストーリー、心象を表現
・『アルジェの戦い』(1966年)ジッロ・ポンテコルヴォ監督 イタリア・アルジェリア合作
→主人公に共感せずにはいられないドキュメンタリー・タッチのドラマ
・『炎のランナー』(1981年)ヒュー・ハドソン監督 英国映画
→映画の語り口に変革をもたらした傑作
・『海外特派員』(1940年)アルフレッド・ヒッチコック監督 アメリカ映画
→飛行機が海に墜落するシーンに注目。『ダンケルク」で参考にした。