<概要>
日時:11月21日(月)20:40~21:10トーク(映画上映は19:00~20:40)
場所:ユーロライブ(渋谷)
登壇:高橋明也氏(三菱一号館美術館 館長)
ウィーン美術史美術館の創立120周年目の節目に行われた大改装を通し、美術館の裏側に迫ったドキュメンタリー映画『グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状』。その公開を記念して、三菱一号館美術館の館長である高橋明也氏をゲストに迎え、トーク付き試写会が開催された。
歴史あるウィーン美術史美術館の改装の舞台裏を描いた今作について、高橋氏は美術館の館長という立場から各国の美術館の違いや美術館の経営などについて語った。
主なトーク内容は次の通り。
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映画の感想
一言で感想を言いますと変わった映画ですね(笑)。アムステルダムやロンドンの美術館を舞台にした映画がありましたが、どれもそれぞれの美術館が持ってる代表作を見せる映画でした。しかし、この映画はあまり作品を見せないですよね。
(映画の舞台である)ウィーンは優雅で気位が高い。私がフランスに行っていた時にフランスの美術館の人たちですら、ウィーンの美術館とやり取りするのは大変だと言っていました。気位が高い、と。ハプスブルク家の階級社会が根強く残っていますね。でもカイザー(皇帝)が売りになっていると美術館の彼らもわかっているので、面白いですね。
正直、最初にこの映画を観たときはショックでした。ルーヴル、プラド、エルミタージュと並ぶウィーン美術史美術館は老舗の美術館なのにブランディングにこだわっていて、こんな大美術館でも追い込まれているのか、とビックリしました。私からしたらちょっと寂しく思いました。こんな大美術館なんだから、もっとゆったりしていたらいいんじゃないのかなと思ったりしました。
美術に対する接し方について
大統領府にマリア・テレジアの大きな作品を入れるシーンがありますよね。“これは小さい頃から見ていた”“教科書でも見ていたんだ”って、その時にみんなが言いますが、日本にはそうゆう土台がないんですよ。小さい頃から美術作品を見て刷り込まれるとかないですよね。いま「若冲展」などは人が殺到して大混雑してますが、こんなことはここ10年ぐらい。小さい頃から美術に親しむという感覚はあまり日本人にはないですよね。西洋はギリシャ・ローマ時代から造形というものが生活の中心にあり、権力者は肖像画を描いて自分のイメージを刷り込ませるということを繰り返ししてきました。美術は権力と寄り添って繁栄し、ミケランジェロだってそうです。浮世絵なんかは成り立ちが違いますよね。
収蔵品について
オークションシーンもありましたが、予算がないので1、2作品だけ、本当に落としたいものに絞っています。欧米のコレクションはほとんど寄贈品で、亡くなる時に寄贈することが多いです。自分の生活、送ってきた人生を、社会の中心にある美術館に寄贈することが喜びであり、誇りなんですね。そういう習慣がきちんとあります。税金もその辺りが考慮されています。日本には寄贈のシステムがないです。そもそも予算もないですし、寄贈のシステムもないので収蔵品が増えないですね。
日本は市民に還元されるという感覚がないのでダメですね。海外では幼稚園や小学生が床に座って絵画を見たりしていて羨ましいです。日本ではなかなか難しいことです。生活や子供たちの成長に必要なものであるという認識はないですよね。