映画『ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ』のイベントが12日に都内で行われ、今作の日本語字幕協力者で村上春樹氏と一緒に新訳・復刊する新シリーズ『村上柴田翻訳堂』(新潮社)翻訳家の柴田元幸氏がゲストとして登場した。
コリン・ファースが演じる編集者のマックスウェル・パーキンズについて柴田氏は「アメリカ文学史の中で最も有名な編集者」と述べた。舞台となった1920年代は、ウィリアム・フォークナー、F・スコット・フィッツジェラルド、アーネスト・ヘミングウェイといった有名作家が活躍した時代。「アメリカ文学史における第二の黄金期であり、パーキンズがいなければ全く違ったものになったであろう」と語った。
その重要な作家のひとりでジュード・ロウが演じたトマス・ウルフは、現在、日本では著作が絶版になっており、読むことが難しいことを柴田氏は「非常にもったいない」と残念がり、「自分ひとりの人生を語りながら、アメリカを、世界を語った貴重な作家だ」と評した。そして、映画の見所でもある、ウルフが止めどなく綴った膨大な量の原稿を、パーキンズが「削除。ここも削除」とばっさり切っていく場面について、ウルフの代表作であり映画にも登場する『天使よ故郷を見よ』(1929年)の元の原稿と推敲後の文章を柴田氏が特別に一部翻訳し読み比べ、編集後は約4分の1の文量になっていることを実証してみせた。
さらに「新しく翻訳するには2年くらいかかるであろう」と思われる『天使よ故郷を見よ』の一節であり、ウルフのプロとしての文芸誌デビュー作である短編小説『An Angel on the Porch(ポーチに立つ天使)』をこの日のために柴田氏が完全翻訳。柴田氏による約 30分の朗読が行われ、若くして亡くなったウルフの誌的でほとばしるような情熱が感じられる文章に、満員の観客は聴き入った。