11月14日公開の映画『ローマに消えた男』から、主演のトニ・セルヴィッロのオフィシャルインタビューが到着した。
“パンパラララン”と鼻歌を歌い、タンゴのステップを踏む男と、人生に情熱を失って25年ぶりに昔の恋人の前に現れる男。まったく個性の違う兄弟を見事に演じ分けたイタリアの名優が、この作品で伝えたかったこととは?
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双子の兄弟を一人二役で演じるにあたってのご感想はいかがでしたでしょうか。また、本作の原作である「空席の王座」は読まれましたか。
多くの作家たちが双子についての作品を残してはいるのですが、今まで舞台でそういった役を演じることがなかったので、今回は非常に素晴らしい機会でした。小説の方は脚本を読んでから、内容を掘り下げるために読み始めました。私は脚本や演出には直接的には関わりませんでしたが、人物像については監督とディスカッションを重ねて一緒に作っていきました。
双子を演じるにあたって意識したことはありますか。
双子という役は、場合によってはそれが一人の人間に見えたり、お互いに影響し合って混乱したり、強いキャラクターが弱いキャラクターに作用したり、最終的にはどっちがどっちなのか分からなくなるといった、ジキルとハイドのような曖昧なところが出てくるわけです。同じ役者が双子を演じ分けるということで、小さな違いであってもはっきり際立たせることが必要であり、外交的なジョヴァンニと内向的なエンリコというのを動きや服や反応の仕方で表現しなければいけませんでした。こういったニュアンスを演じ分けることができて、非常に面白かったです。
ブレヒトの詩の演説シーンは思わず息を呑んでしまうほどの迫力がありました。どのような気持ちを込めてこの詩を朗読されたのでしょうか。
素晴らしいブレヒトの詩なのですが、このシーンは多くのメッセージを含んだ、本作の中でも非常に重要な場面となっています。詩を引用しておりますが、劇中では主人が思いついた彼自身の言葉のようにも見えます。演劇の舞台にも似た政治の集会で、この演説が人々に対して直接行われることで、人と政治がつなげられた場面なのです。
共演者について、アンドレアを演じたヴァレリオ・マスタンドレアや、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキとの共演はいかがでしたか?
彼らと初めて仕事をしたのですが、マスタンドレアは彼らの世代の中では最も重要な役者だと思います。人間性が高く、すごく細かなニュアンスを表現することができる器用な役者なのです。映画全編において、彼の表情や動きなどの一挙一動を通じて、何が描かれようとしているのかを感じることができるのです。彼とは一種の共犯関係のようなものが成り立っていたかと思います。
テデスキは単純に女優というには足りなくて、演出家でもあるので、すごくクリエイティブな人間で、一緒に仕事をしたのはとても素晴らしかったです。
ミステリアスなラストシーンが印象的でしたが、この作品の持つ魅力とは何なのでしょうか。
この作品のラストシーンは非常に詩的な曖昧さをもっています。この双子はもしかしたら一人の分裂した人間なのかもしれないし、あるいは片方は自分の中に別の自分を見つけることができたのかもしれない。鬱だった人間が言葉を見つけたことによって新しい生命力を見つけることができたのかもしれない。そういう風にとらえることもできる素晴らしい結末だと思います。
本作を通じて、どのようなことを伝えたいでしょうか。
この映画ではいろいろな曖昧な部分があって、兄弟同士の違いを描いているわけですが、最終的には人間と職業がちゃんと一致していなければいけないという非常にモラリスティックなことを訴えています。このような重いテーマにおいても軽快なコメディタッチを使うことによって心地よくとらえることができるので、映画においてこういった“軽やかさ”というものが非常に重要なのだと思います。