「ブラック・スワン」「ザ・ホエール」などを放ってきたダーレン・アロノフスキー監督。彼がわずか6万ドルで撮り上げた初長編が、数字に取り憑かれた男の妄想を超感覚的に描いた「π〈パイ〉」(1998)だ。
98年サンダンス映画祭では「デヴィッド・リンチとキューブリックの世界を合わせもつ」と評され、最優秀監督賞を受賞。そんな衝撃のカルト作が、A24が鮮烈に蘇らせたデジタルリマスター版で、3月14日(木)よりホワイトシネクイントほかで全国順次公開される。著名人のコメントが到着した。
〈コメント〉
まるで音楽をサンプリングするかのような、モンタージュを用いた映像表現にだんだんとグルーヴし不思議と整う鑑賞後感。近作まで貫かれる主題、宗教への批評眼など、アロノフスキー監督を捉える視点がデビュー作よって補強された。
--奥浜レイラ(映画・音楽パーソナリティ)
公開からおよそ四半世紀を経て、巨匠のデビュー作を観直すのも格別なる楽しみ。リズミカルに、スタイリッシュに、暴力的にインサートされる様々なアイコン(カプセル剤、蟻、貝殻、キーボード、半導体、囲碁、鍵、除き穴、注射器、株価ボード、鼻血、頭痛…)の羅列が、脳内でひとつの配列をなす時、主人公(マックス)と脳内を共有していた観客も、侵食され、陵辱される。本作に、明確な“解”はない。僕らはただ“回答”するだけだ。それが、“π”の呪いであるかのよう。本作もやはりダーレンの映画なのだ。これはダーレン・アロノフスキーという天才的な異常者を紐解く為の“円周率”なのだ。
--小島秀夫(ゲームクリエイター)
低予算の中でセンスとパッションが生み出した原点。マッシブ・アタック、ロニ・サイズ、エイフェックス・ツインらのサウンドと共に、これが最先端だった時代の熱と記憶がよみがえった。
--下田法晴(SILENT POETS)
90年代、不幸にも観る機会に恵まれないままにいた“その作品”を、21世紀2024年の春、遂に体験することができました。
本作の表現の根幹にある、「私たちの身の周りのものはすべて、数字で表し、理解することができる」は、奇しくも私の尊敬する天才音楽家ロバート・フリップ氏の思想・哲学とピタリと一致しています。
氏はキング・クリムゾンという音楽形態でその事実を見事に表現し、音楽=数学を実践してみせてくれています。
なので私はこの映画の訴える“自然界×神秘=数式”の理論にはすんなりと同調できましたが、なにより感動的だったのは劇的な陰影を映し出す深いモノクロームの映像美でした。
デジタライズの象徴である数字のもつ意味をアナログの権化のようなモノクローム・フィルムが映し出す、なんと理不尽な美しさでしょう。
そして、後半のマックスの長いセリフの中に潜んでいた「Between The Numbers」というライン。私がいつか楽曲で表現したいと密かに思っていた言葉でもあるのですが、実はこの「Between The Numbers」にこそこの映画の全ての真理があるのです。
--土屋昌巳(ミュージシャン/音楽プロデューサー)
最高に尖っていた若きダーレン・アロノスフキーの特濃の才気が迸る。
A24が認定したように、これは現在の乱世を生きる我々のネオ・クラシックだ。
--森直人(映画評論家)
「π〈パイ〉 デジタルリマスター」
監督:ダーレン・アロノフスキー
出演:ショーン・ガレット、マーク・マーゴリス、スティーヴン・パールマン
原題:π/1998年/アメリカ/モノクロ/ビスタ/4K/5.1chデジタル/85分
字幕翻訳:林完治 配給:ギャガ
©1998 Protozoa Pictures, Inc. All Rights Reserved
公式サイト:https://gaga.ne.jp/pai/