珠玉の作品を上映するプロジェクト〈the アートシアター〉の第4弾として、HDリマスターで甦ったアッバス・キアロスタミの傑作「クローズ・アップ」が、9月3日(土)より渋谷ユーロスペースはじめ全国のアートハウスで公開される。「鉱 ARAGANE」「セノーテ」の小田香監督が制作した予告編、ならびに濱口竜介監督と深田晃司監督のコメントが到着した。
ある男が映画監督のモフセン・マフマルバフになりすまし、裕福な一家を騙したという詐欺事件を知ったキアロスタミ監督は、すぐに裁判所を訪れて公判の模様をカメラに収めることに成功。さらに、事件の過程を当事者たちに演じさせて再現することで、事の次第を明らかにしていく。ドキュメンタリーと再現、虚構と現実を精巧に織り上げた果てに、ついに映画は詐欺容疑で逮捕された青年の心の奥に秘められた真実を探り当てる--。
キアロスタミの美しく独創的なフィルモグラフィにおいてもひときわ異彩を放ち、ヴェルナー・ヘルツォークが「史上最も素晴らしい映画作りについてのドキュメンタリー」と語るなど多くのシネアストを魅了してきた「クローズ・アップ」。日本での上映機会は限られ、昨年12月の【連続講座「現代アートハウス入門」ネオクラシックをめぐる七夜 Vol.2】での1回限りの上映は即満席に。スクリーンで観たいとの声が多数上がる中、劇場公開が決定した。
コメントは以下。
自分が見たものを信じられずに何度も見てしまう。イラン社会をすり抜けつつ恩寵のような偶然をすべてものにしてしまう、もはや悪魔的なまでの狡猾さと執念。なぜこの世にこんな映画が存在するのかまったくわからないが、目の前にある以上は信じざるを得ない。キアロスタミによる映画の存在証明。
--濱口竜介(映画監督)
奇跡。そうたやすく使うべきではないこの言葉を呟かざるをえない希少な機会の一つは「クローズ・アップ」を前にしたときである。人も空き缶も虚構も現実も何もかもがカメラの前で等価になる美しさと残酷さ。必見。
--深田晃司(映画監督)
予告篇制作に不慣れで、確認作業をするために、繰り返し同じ場面を見ました。その度に胸を打つショットたち。
主人公の顔つき、花束の鮮やかさ、転がっていく空き缶の音から、ぐんぐんと映画に引き込まれ、はっと編集机に戻ってくる、という時間を過ごしました。
素晴らしいショットやイメージというのは、一瞬で時空を超えさせてくれるのだと、しみじみ感じました。
--小田香(映画作家)
「クローズ・アップ」
監督・脚本・編集:アッバス・キアロスタミ
撮影:アリ=レザ・ザリンダスト
出演:ホセイン・サブジアン、ハッサン・ファラーズマンド、アボルファズル・アーハンハー、メフルダード・アーハンハー、モフセン・マフマルバフ
1990年/98分/イラン/英題:CLOSE-UP
© 1990 Farabi Cinema
配給:ノーム/東風