巨匠・黒澤明監督の助監督を務め、監督デビュー作『雨あがる』(00)以来、一貫して人間の美しい在り方を描いてきた小泉堯史監督が、吉村昭の原作「雪の花」(新潮文庫刊)を映画化。日本映画を代表する豪華キャストとスタッフが集まり、多くの人命を奪う疫病と闘った無名の町医者の愛と感動の実話を描く日本発 本格時代劇『雪の花 ―ともに在りて―』が1月24日(金)より全国公開中。
満員御礼で迎えた公開初日。福井藩の町医者で漢方医の笠原良策を演じた主演の松坂は「時代劇は芳根さんとご一緒した『居眠り磐音』以来ですが、改めて時代劇は良いなと思いました。」と実感を込めながら挨拶した。
本作の撮影については「撮影自体は本当に早くて、小泉監督の現場というものは朝入ったら照明もカメラもすべてセッティングされています。段取り・テストをやって本番という流れで、撮影自体も多くて2、3シーンくらいで昼過ぎ、遅くとも午後3時には終わっている。そこから翌日のリハや本読みをするという、充実した時間を過ごしていました。撮影そのものは過酷ではなく、むしろ健やかなとてもいい状態で毎日現場に行かせていただきました」と振り返っていた。
良策の妻・千穂役の芳根。小泉監督とは映画『峠 最後のサムライ』(2022年)以来となるが、「毎シーン、小泉監督の『本番!』という声で心臓の音が聞こえるくらい緊張しました。でも監督は自然をも仲間にしてしまう方なので、緊張はしているけれども、自然の音が耳に入って来る心地の良い穏やかな現場でした」と充実した表情だった。京都の蘭方医・日野鼎哉役の役所。主演の松坂とはこれで5度目の共演となるが「笠原良策という役は、松坂君の誠実で志に向かって諦めない男にピッタリ。普段の松坂君が良い人なのかどうかは知りませんが(笑)、でもこの役は松坂君に合っているし、松坂君しか思い浮かばないような役。男でも惚れちゃう感じがします」とユーモア交じりに太鼓判。このお褒めの言葉に松坂は「今日はゆっくりと眠れそうです!」と満面の笑みだった。
松坂は、役所との5度目の共演を回想し「役所さんが演じる鼎哉先生の『名を求めず、利を求めず』というセリフが聞こえてきた瞬間、役を飛び越えて僕にも言われているような刺さり方がした。それはこの仕事をさせてもらう中で今まで味わったことのない感覚で、役所さんの目を見て芝居をさせてもらって、その言葉が出てきた時にグサッと刺さった。それが今でも残っていて、僕自身にも来るものがあった。凄かったです」と改めてリスペクト。当の役所はテレを隠すように「先輩を立てて褒めてくれてありがたいですね~!」と言いながらニコニコしていた。
さらに役所は松坂から「鼎哉先生が授業をするシーンでは、役所さんを先生として授業を受けられる感覚が楽しくて、毎日いい時間だった」と言われると、「本当かなあ?セリフを噛まないで早く終われ!と思っていたんじゃないの?」とチャーミングに松坂をイジって、松坂を「そんなこと思っていません!」と焦らせていた。
一方、芳根は自身の太鼓演奏シーンに触れて、「小泉監督が太鼓練習の場に何度も来てくださって、練習経過を見てくださった。来てくださるたびに良くなったと思ってもらえるように頑張ろうと思って、小泉監督が鼓舞してくださることがモチベーションに繋がりました」と感謝。今では太鼓のバチさばきが体に染みついてしまったようで「細長いものを持つと、手首の角度がバチを持つときのようになってしまい、練習期間が蘇る」とマイクをバチに見立てて凛々しいポーズを取っていた。そんな太鼓演奏シーンを間近で見た松坂は「もう圧巻でした」と感激し「現場で会うたびに手首がテーピングだらけでボクサーのようで、太鼓演奏がどれだけ大変だったのか肌で感じることが出来ました。演奏シーンの本番は圧倒されて、終わった瞬間に芳根さんは泣き崩れるような形になって...。あれは忘れられません」と芳根の努力を労っていた。
黒澤明監督の助監督を長らく務め、黒澤監督を師と仰ぐ小泉監督。黒澤監督の私物である薬などを作るための道具・薬研を小道具として現場に持ち込んだという。実際に劇中で使用した松坂は「博物館で展示するような貴重なものだったりするので、いいんですか!?と。手も震えました」と恐縮しきり。すると小泉監督から「あれは黒澤さんの映画『赤ひげ』で三船敏郎さんが使っていたものですからね」とまさかの追加情報があり、初耳の松坂は「...今聞いてよかったあ」と震えていた。
そして、“諦めないで成し遂げようとした人物”笠原良策にちなんで、今年成し遂げたい、成し遂げようとしている目標をそれぞれ発表。松坂は「年始にちょっとだけ体調を崩してしまいましたが、それ以降は体調を崩さないという強い意志で完走しようと心がけています!」と健康第一を挙げた。芳根は「今を全力という事を心がけているので、現在撮影中のドラマを無事故無怪我で完走するのが目標」といい、役所は「職業柄、今年もお客さんに楽しんでもらえる作品になるように頑張ります!」と意気込んだ。途中、本作の記念を公開して“鏡開き”が行われ、その様子に客席からは大きな拍手が送られた。
最後に小泉監督は、本作の撮影を担当し、黒澤組の名キャメラマンだった上田正治さんが87歳で亡くなられた事を報告。「上田さんにとって本作が最後の作品になります。彼の映像の素晴らしさはスクリーンでなければ観れないと思いますので、上田さんのキャメラを見るつもりで何度も劇場に足をお運びください」。主演の松坂も「小泉監督が仰る通り、上田さんにしか撮れない作品です。上田さんとはこの作品で初めてお会いしましたが、撮影中はどんな悪路であろうとも自らカメラを担いで歩いて行ったりして、物凄いエネルギーとパワーで撮影現場にいました。その姿を見られて僕は幸せだったと感じています。そういった素晴らしいスタッフ・キャストが作り上げた作品なので、自分が作品を観て受け取った感想で構わないので、色々な人に『雪の花 ―ともに在りて―』を繋いでくださると幸いです」と呼び掛けていた。
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