長編映画デビュー作『赤い雪 Red Snow』(19)が第14回 JAJFF(Los Angeles Japan Film Festival) 最優秀作品賞を受賞するなど、繊細かつ圧倒的に作りこまれた世界観が国内外問わず高く評価されている甲斐さやか監督の最新作、日仏合作映画『徒花 -ADABANA-』の公開が2024年10月18日(金)にテアトル新宿、TOHOシネマズ シャンテ他で全国順次公開。
映画『徒花-ADABANA-』の完成披露上映会が、10 月 3 日に東京・テアトル新宿にて開催され、主演の井浦新をはじめ、共演の水原希子、三浦透子、⻫藤由貴、永瀬正敏と、監督を務めた甲斐さやかが舞台挨拶に登壇した。
⻑編映画デビュー『赤い雪 Red Snow』(19)が第 14 回 JAJFF(LOS Angeles Japan Film Festival)で最優秀作品賞を受賞するなど、繊細かつ圧倒的に作りこまれた世界観が国内外問わず高く評価されている甲斐さやか監督の最新作となる、日仏合作映画『徒花-ADABANA-』は、ウイルスの蔓延で人口が激減し、病にむしばまれた上層階級の人間だけにもう一つの身体「それ」の保有が許されるという世の中で、自分の「それ」と対面した男の葛藤を描き出す。死が身近に迫る新次を井浦新、臨床心理士まほろを水原希子が演じ、他にも三浦透子、⻫藤由貴、永瀬正敏ら豪華実力派俳優が顔を揃えた。
タイトルの『徒花(あだばな)』とは、「無駄な花」を意味するが、そこにこめられた美学と生命の価値、今ここにある「怖さ」を突きつける本作。甲斐監督が 20 年以上かけ構想し、書き上げたオリジナル作品であり、フランスの国立映画映像センターが行う助成制度「CNC」の対象作品で、第 37 回東京国際映画祭の新設部門となるウィメンズエンパワーメント部門への出品も決定するなど、多くの注目が集まっている。
満席の会場を見渡しながら、井浦は「通いなれたテアトル新宿で、この作品で一緒に登壇する監督、共演者の皆さんと、こちら(舞台)側からいつもと全然違う景色を見せていただいてありがたく思います」と感慨深げ。水原も「撮影していたのは 2 年前。まだコロナ禍で、今とは全然違う状況でした。私自身が観たいと思う作品に出られたことをとても嬉しく思います」と喜びをかみしめる。
新次の過去の記憶に登場する、海辺で知り合った謎の「海の女」を演じた三浦は「撮影自体は短かったのですが、もの凄く印象に残っていて、好きな映画です。皆さんに届けられて嬉しいです」と微笑みながらも、撮影は過酷だったようで、「寒かったです(笑)。でも皆さんに『大丈夫?』と言っていただいて、あんなにケアをしてもらった現場はほかになかったです。楽しい撮影でした」と述懐していた。新次の幼い頃の母親役を演じた⻫藤は「最初に出演のお話をいただいたときに、ディレクターズステートメントというものを頂戴し拝読しました。その時にとても印象的だったのが、扱っているテーマは難しい部分があるけれど、甲斐監督が作りあげたこの映画の行間にある空気感みたいなものを、皆さんに感じていただきたいと思いました。私はとても毒々しい役を演じておりますが、とてもやりがいのある挑戦でした」と語る。役柄的に大人の新次と会うことはないが、井浦は⻫藤の撮影現場にも駆けつけていたという。新次の主治医を演じた永瀬は「この映画の完成作品を観たときに、もうすぐに次回作が観たいと思えた作品でした。甲斐監督の心の中に思いを皆さんに届けてほしいと思いました」と、すっかり監督の世界観に魅了された様子。監督は「この方に出ていただきたいと思った方々に出ていただけたことは、あらためて大それたことをしたもんだなと(笑)。とても素敵なキャストの方々が魂を削って、そこに存在してくださったことに本当に感謝しますし、お芝居が本当に素晴らしいです」とキャスト陣に感謝を表した。
新次と「それ」の二役を繊細に演じた井浦は、感想を聞かれ「もう具合が悪くなりました」と苦笑い。それでも「これまで 1 人 2 役の経験がなかったので、絶対にやりがいしかないだろうなと思いましたね」と意欲満々。甲斐監督作品の『赤い雪 Red Snow』(2019年)にも出演しているが、「甲斐監督の作品に没入するのは、俳優として凄く幸せを感じるんです。どれだけ苦しくて、具合が悪くなって、痛くても、それが全て喜びへと変わっていく。それを一度経験させてもらっているので、またこの『徒花』で無茶苦茶やらせてもらえるんだ!と嬉しさもありながら、不安しかなかったりもしました」と心情を吐露。井浦の熱量も大きかったようで、監督は「井浦さんからも色々なヒントをいただきましたので、それを絶対に形にしようと思いました。もう皆さん凄くて、見どころがたくさんある。俳優の力って本当に凄い。驚くばかりでその感動が多いです」と俳優たちの力量に圧倒されていた。
水原も臨床心理士を演じるため、実際に臨床心理士にインタビューをして役作りをしていったそうで、「病院に勤める臨床心理士の方の、(患者との)距離感が絶妙なんです。どこまで受け止めて、寄り添って、仕事としてまっとうするか・・・。これはとんでもなく大変なお仕事だなと」と感銘を受けながら演じていたと話した。
井浦とは初共演となる水原。「新次とまほろの絶妙なもどかしい関係値」と言い、難しさもあったようだが、井浦の印象を「天使です!」とニッコリ。「自分が役と葛藤して不安そうにしていると、『大丈夫、大丈夫だよ』と言ってくださって」と井浦に感謝。「私は皆さんに支えられて演じることができました」としみじみと振り返っていた。
一方で、井浦は水原を「希子さんは本当にまじめです。初めての顔合わせのときも臨床心理士の話が止まらなかったです(笑)。自分の出番がないときでも常に現場から離れず、寄り添って、最大限に楽しみながら、苦悩しながら臨んでいる姿がとても素晴らしかった。本当にまじめに役にしっかり向き合う方だと感動しました」と絶賛する。
一方で、本作のオフィシャルカメラマンも務めた永瀬。「撮影の合間にも色々なところをカメラに収められて幸せでした」と充実感を滲ませると、監督が「朝からオ黑子に徹していて、オーラを消して現場にいるので、(永瀬だと)知らないスタッフが普通にスタッフのように永瀬さんに指示出していましたよね(笑)三浦さんの海のシーンでもずっといらっしゃって。最後まで待ってくださって凄くいいショットになりました」と感動しきり。
井浦も「永瀬さんが甲斐組の守り神のようにいてくれましたね」と微笑み、「本当に素晴らしい素敵な写真がたくさん見られます」と伝える。永瀬は恐縮しながらも「次もカメラマンとして呼んでください(笑)」と監督におねだりも。
“徒花”というタイトルについて、監督は「“無駄な花”と言う意味もありますが、人間の存在を描いているような作品にしたかった」ですと述べ、「忙しい日々の中で自分を見失ってしまうような現代に生きていることもあるかもしれませんが、ちょっと立ち止まってそこに空虚だけでなく希望のようなものを作品に託したつもりです。役者の皆さんが生々しいお芝居で強いメッセージを送っているので、何かを感じ取っていただいて、その思いを抱きとめていただけたら嬉しいです」と思いの丈を口にする。
最後に、井浦は「甲斐監督の私たちへの問いかけは、本当に鋭い目には見えないくらい刃で突き刺してくるような衝撃がありますが、その刃に刺されると痛みもありますし、苦しさもありますが、その痛みを越えた先には作品を観た人の数だけ素敵なものが待っていると思います。この作品は観れば観るほど楽しくなっていくと思います」とアピール。そして、監督が「構想から凄く⻑い年月が経って、ようやくこの作品を作ることができましたが、このキャストの皆さんに出ていただかなければ全く違う映画になったと思いますし、いま撮れて本当に良かったなと思います。この方々の感性というものを掛け合わせての『徒花』だったと思います。お芝居の凄さにもきっと衝撃を受けていただけるんじゃないかなと。現実が急激に自分を追い越していくようなスピードで、じっくり色々なことを考える時間が持てない時代だと思いますが、スクリーンで皆さんと対話して思ったことをまた教えていただけたら嬉しいです」とメッセージを送り、舞台挨拶を終了
した。
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