3月17日(金)は「みんなで考える SDGs の日」です。2015 年に国連で採択された SDGs(持続可能な開発目標)が目指す持続可能な社会の実現のために、映画の撮影現場でも環境保護の取り組みが行われています。江戸の循環型社会が描かれる本作『せかいのおきく』の撮影現場で行われていた、環境に配慮した取り組みをご紹介します。
『せかいのおきく』は究極の「3R(リデュース・リユース・リサイクル)」映画!
劇中に出てくる美術・衣装・小物は全て、新しいものは一切使用しない徹底ぶり
映画『せかいのおきく』の撮影現場では、江戸の循環型社会が描かれる本作の物語と同様に、環境に配慮した様々な取り組みが行われた。映画美術のセットは、建物や装飾、小道具など様々なものを新しく作り、撮影後は大量のごみとして排出されることも多々あるが、本作では、企画・プロデューサーで美術監督の原田満生氏の指揮のもと、美術セットや小道具、衣裳に至るまで劇中に出てくるもの全て、新しいものは一切使用しない、「3R(リデュース・リユース・リサイクル)」映画(原田氏が命名!)として撮影することを決めて準備が行われた。
例えば、主人公・おきくが住む長屋のセットは、東映京都撮影所にある様々な名作が生まれたオープンセットをリユースして作られた。また、おきくと中次が手を取り合う本作のメイン写真にもなっている雪が降るシーンでも、松竹京都撮影所にある、長屋オープンセットをリユースして印象的な舞台を創りあげた。また、本作ポスターにも登場する、おきくと中次・矢亮の 3 人が雨宿りする厠の建物は、新材ではなく古材を使って作成。中次と矢亮が下肥買いの仕事で乗る「汚穢(おわい)船」や、肩に担ぐ桶や大八車などもリユースされているものだ。
「汚穢(おわい)船」について、美術監督の原田氏は、「『せかいのおきく』で中次と矢亮が漕いでいる「汚穢船」は、昭和の高度成長期(今から 60 年くらい前)に造られた木船。現代では、木の船は殆どなく、多くが FRP(繊維強化プラスチック)で作られた船なのでとても貴重でした。
この木船は、栃木市で川の遊覧船として使われていたもので、古くなったので、本作のマリン統括ディレクターの中村勝が 3 艘を譲り受けました。その遊覧船を加工して「汚穢船」としてリユース、その際も新材ではなく、古材を使用しています。そのほうが、風合いも出て統一感がでるメリットもあります。それまでの歴史を背負っている、そのような存在感が出るのです。『せかいのおきく』の撮影が終わったら、次の作品では昭和初期の屋形船として加工してリユースしています。本作のように、3R を徹底して映画の世界観を作り上げることができたのは初めてのことです。今あるものをリユースしていく取り組みは、映画の現場としても目指すべき姿です。この作品をきっかけに伝えていくことも大切だと思っています」と語る。
さらに、衣裳も全てリユースされている。池松壮亮演じる矢亮の衣裳の生地は明治時代のもの、黒木華や寛一郎はじめ、全キャスト、登場人物全ての衣裳は、昭和初期の生地をリユースし、仕立て直している。そして、本作撮影で使用した美術セットや衣裳は全て捨てることなく、撮影所に残し、また次の作品で活用してもらえるよう保管している。
物語さながら江戸の循環型社会を再現するかのような現場作りを試みた原田氏は、「この映画で世の中が変わるなどとは思いませんが、大事なのは伝えていくこと。日本にはかつてこんな営みがあり、こんなに素晴らしい社会があったということを、多くの人に知ってもらいたい。それが次に繋がり、世の中にとっていい動きが生まれれば、と思います」
と、本作に込めた想いを語っている。
阪本監督はじめスタッフやキャストが共に、限りある資源を有効活用した撮影現場で、その豊かさも不便さも糧にして作り上げた映画『せかいのおきく』。本作の印象に残る唯一無二のシーンの数々...その撮影の裏で行われた環境配慮の取り組みエピソードとあわせて、ぜひ劇場スクリーンでご覧になった際にお楽しみください。
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