知られざる天才クライマーの才能はいかにして育まれたのか?ドキュメンタリー映画『アルピニスト』

知られざる天才クライマーの才能はいかにして育まれたのか?ドキュメンタリー映画『アルピニスト』

米アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を獲得した映画『フリーソロ』以来の壮大なスケールと迫力に満ちた驚くべきアルピニストのドキュメンタリー映画『アルピニスト』が、7月8日より全国公開となった。
世界でも有数の岩壁や氷壁、数々の断崖絶壁を、命綱もつけず、たった独りで登る無謀なフリーソロという登山スタイルを貫いたマークは、SNS社会に背を向けながらも、不可能とされていた数々の世界の山脈の難所に挑み、次々と新たな記録を打ち立てていく。だが、そんな偉業を成し遂げながらも、名声を求めない彼の性格から世間的な知名度はほぼ皆無――。本作は、思わず目もくらむ、崩れ落ちそうな岩と氷の断崖絶壁をものともせず、命綱をつけずにたった独りで頂点を目指すアルピニストの姿が収められている。普段、なかなか見ることのできないような雄大な自然を背景に、体力と精神力の極限に挑むマーク。そんな彼の驚くべきフリーソロというクライミング・スタイルに、思わず手に汗握る作品だ。

世間でクライミングが注目を集めるのに比例して、派手な広報活動や、大手のスポンサーがつくメディアイベントを行うことは、今では当たり前のこととなっている。一流クライマーになるほど、SNSのフォロワーは増加し、そのチャレンジの一挙手一投足が注目されることに。しかしそうした流れとは一線を引き、自分のやりたいことをピュアに突き進んだのが、本ドキュメンタリーの主人公マーク・アンドレ・ルクレールという人物だ。彼は誰もがひるむような過酷な岩と氷の絶壁を完登し、世界一過酷なルートといわれるコークスクリュー・ルートを単独で制覇、という比類なき快挙を成し遂げた。これはともするとSNSで大騒ぎとなりそうだが、ネット界隈で寄せられたコメントはたったの3件。

「超スゴい!」「とんでもない偉業だ」「マーク・アンドレ・ルクレールって誰?」。世間の注目を集めるためのアピールなど、どこ吹く風。名声にも興味がなく、メディアに登場することもない。誰もが自然の驚異にひるんでしまうような危険な崖さえも、登りたいと思ったら登る。ただ気の向くままに、マイペースに、情熱だけが彼を突き動かす。しかし、なぜそんな危険を冒すのだろうか? マークの返答は「娯楽みたいなものかな。楽しい冒険さ」というものだった。

まさにSNSのなかった「70~80年代のワイルドな世界にいる」と評されているマークだが、彼は母親(ミシェル・カイパース)の影響を色濃く受けた。彼女は、学校に馴染(なじ)めなかったマークを型にはめることなく、自由にやりたいことをやらせた。子どもの頃に冒険しないと、自分を見つけられない。自分の可能性にも気づけない。そうした環境で育まれたからこそ彼は、クライミングの魅力に取りつかれ、独学で学ぶほどにのめり込み、やがて独自のスタイルを生み出していったのだ。

本作は、マークという特異な才能はもちろんだが、その才能がいかにして育まれたのか。親子の関係性についても考えさせられるドラマとなっている。

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『アルピニスト』2022年7月8日 より シネマズ シャンテほか全国にて
配給:パルコ ユニバーサル映画
(C)2021 Red Bull Media House. All Rights Reserved.

最終更新日
2022-07-12 12:00:00
提供
映画の時間編集部

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