草彅剛主演、内田英治監督オリジナル脚本映画『ミッドナイトスワン』が本年9月25日(金)より公開中!
本作は、トランスジェンダーとして日々身体と心の葛藤を抱え新宿を舞台に生きる凪沙(草彅)と、親から愛を注がれず生きるもバレエダンサーを夢見る少女・一果(服部樹咲)の姿を通して“切なくも美しい現代の愛の形”を描く「ラブストーリー」。
この度、欧米、アジア、中東などの海外メディアから『ミッドナイトスワン』の会見開催を望む声が協会に多数あり、熱烈なオファーを受け、日本外国特派員協会にて記者会見を実施。主演:草彅剛と、本作の脚本・監督を務めた内田英治が登壇し、外国記者からの質問からの質問や、世界中で本作を応援しているファンに向けてメッセージを語りました。
冒頭の挨拶で、内田監督は「映画の公開は 3週目を迎え、大変多くの人に観ていただいています。オリジナル脚本の映画が、これだけの劇場数で公開され、多くの人に観ていただけるということはなかなかないことです。小説や漫画が原作の映画が多い日本で、たくさんの方にオリジナルの脚本映画を観ていただけているこの状況を、とてもありがたく思っています」とコメント。
草彅は「映画は今、公開中ですが、今日のこの会見をいろんな方が見ることで、よりたくさんの方に関心を持っていただき、1人でも多くの方々に作品の魅力が伝わることを願っています。いつもの会見とは少し雰囲気が違うということからも、この作品がいろんな方に注目され、広がっていることを実感しています。『ミッドナイトスワン』が、大きく遠くに羽ばたいているのかなという気持ちです。今日はよろしくお願いいたします」と笑顔で語った。
役を引き受けた理由について草彅は「この作品は、監督のオリジナルの脚本です。初めて脚本を読んだときには、トランスジェンダーの役で難しいとは思いましたが、それ以上に、脚本から、今まで感じたことのないような温かい気持ちが込められているのを実感できました。もちろん、すごく難しい役だとは思いましたが、それよりもこの素晴らしい作品に参加したいという気持ちが勝ってしまいました。そして、すぐに撮影に入りたいという気持ちにもなった作品です」と説明した。トランスジェンダーや、LGBTQ の友達がいるかどうか、さらに、役作りにおいて、そういった方々と実際に話をしたかどうかという質問に、草彅は「これまでの芸能活動で知り合った方の中に数人 LGBTQ の方々がいました。みなさんとても優しい方で、いろいろと僕を助けてくれた方たちです。役作りに関しては、トランスジェンダーをあまり意識せずに、脚本が持っているエネルギーのようなものをのせていきたいと思っていました。僕自身が脚本を読んだときに流した涙は、どんな涙なのか、なぜ涙が流れたのかはよくわかりませんでした。でも、自分自身、とても素敵な涙だと感じました。そのエネルギーや気持ちを役にのせることが一番の役作りだと思い、演じました」と役作りの様子を明かした。トランスジェンダーの役者の起用を検討したかという質問に内田監督は「脚本が出来上がり、次はキャスティングとなった段階には、トランスジェンダーやシスジェンダーの役者など、あらゆる可能性を考えましたし、すごく悩みました。先日の足立区議会厚生委員長・白石正輝氏の性的マイノリティーに対する発言からも分かるように、日本はまだその段階じゃないとも感じていました。トランスジェンダーの役者は非常に少ないし、何よりも、トランスジェンダーに関する世間の意識も低く、まず認知がされていないという状況です。この映画は、多くの方が観てくれる作品にすることがまず大事だと感じていました。そのためには、演技がちゃんとできて、日本で広く認知されている方ということで、草彅さんにオファーさせていただきました。トランスジェンダーの役にはトランスジェンダーの俳優を、という世界的な流れがあるのは十分承知しています。日本もいずれはそうなるべきだと思っていますが、残念ながら、日本はそのスタート地点にも立ってないという状況です。まず、初歩の段階で必要なのは、トランスジェンダーの方で役者をやりたい人が増えることだと思っています。この作品には、トランスの女優である真田怜臣(さなだれお)さんが出ています。彼女は、舞台の経験は多いのですが、映画に出演するのは初めてでした。現場で草彅さんと真田さんの芝居を見て感じたのは、草彅さんの演技に感化されて、どんどん演技が良くなっていくということ。今回の経験を経て、彼女が僕の次の作品にも出演すればいいなと思ったくらいです。これから俳優をやるぞという方たちにとって、草彅さんのような立場の方、影響を与えられる方というのはすごく必要だと感じています。改めて、草彅さんに出演していただいてよかったと思いました」とキャスティング、撮影現場の様子を振り返った。
トランスジェンダーの凪沙に、今までなかった母性が芽生えていく物語。役作りについて訊かれた草彅は「撮影に入る前に監督からトランスジェンダーの方のドキュメンタリーDVD や、監督が自らまとめた資料などをたくさんいただきました。また、トランスジェンダーの方たちとミーティングする機会を設けてくださって、それが役作りに大いにつながった部分はあります。映画の中で、凪沙というキャラクターが、徐々に母性に目覚めていかないといけない。そこはすごく難しいところではあったけれど、“何かを育てる気持ち”というのはジェンダーレスに芽生えるものであって、男性も女性も変わらないと感じました。植物を育てたりとか、工作とか図工で何かを作ったりなど。何かを育てていく、育んでいくという気持ちで演じていくうちに、自分の中で”もしかしたらこれが母性なのかな”と目覚めていった感じです」と解説した。
タブーのようなテーマを扱うと決めたときの反応と、難しさを訊かれた内田監督は、「僕自身は、この問題がタブーだとは思っていません。どうしても、トランスジェンダーの映画という形でくくられてしまうけれど、基本的には血は繋がっていない関係に芽生えた母性と愛情の物語。トランスジェンダーはあくまでもキャラクターの背景です。草彅さんとはいつも、凪沙というキャラクターをどう作り込んでいくか、凪沙という主人公の映画をどう展開していくのかについて話していました。映画作りの難しさは、この作品だからという特別なことはありませんでした。ただ、映画公開後には、SNS などでもとてもたくさんの意見が出てきました。今まで、LGBTQ やトランスジェンダーの問題を語ることを怖がっていた、躊躇していた人たちが、シスジェンダー、トランスジェンダーとは、と語るようになりました。日本においては、まだまだジェンダーへの理解度や認識が低い傾向の中で、多くの若い人がこの映画に反応してくれたことをすごくうれしいと感じています。映画館では多くの若い人を見かけます。草彅さん演じる凪沙は、テレビに出ている、いわゆるニューハーフと呼ばれていた方々とは違うと知り、何かを感じてくれただけでも、この映画をやってよかったなと思いました。そして、そういった若い人たちが観るきっかけとなったのは、草彅剛という俳優がいたからこそだと思っています。映画監督としてとてもよろこばしく感じています」と笑顔を浮かべた。
改めて、先日の足立区議会厚生委員長・白石氏の性的マイノリティーに対する発言についてどう感じているかという質問を受けた内田監督は「あの発言は、許しがたい発言だと思っています。こういう映画を作っているからではありません。政治家と名乗る方があのような発言をすること自体、言葉にならないくらい許しがたい発言だと思っていますし、抗議したい気持ちでいっぱいです。実際に、彼のインタビューを読んだのですが、とても無知で保守的な考えだと感じました。LGBTQ 含め、様々な事柄に無知な部分が多い日本において、これから若い人を中心に一歩一歩進むしかないと思っています。あのような発言をする政治家が急にいなくなることはありません。草彅さんは俳優、僕は監督なので、こういう作品を作ったからといって、こうしなさいという立場ではありません。ですが、この作品が何かを考えるきっかけになるといいと思っています。“あの政治家おかしなことを言ってるんじゃないか”と感じるきっかけになればいいかなと思っています」と訴えた。
オリジナル作品が成功するのは難しい日本の映画業界の問題点はどこにあると感じているか、という質問に内田監督は「オリジナル作品は非常に少ないのが現状です。全国規模の作品の中でオリジナル作品が占める割合は、アメリカは 4 割くらいあるけれど日本は恐らく 5 パーセント以下じゃないでしょうか。ビジネスとしては、ベストセラー小説や漫画を映画化した方が安心です。日本のプロデューサーは会社員であることが多いので、会社から OK が出る企画、なるべくリスクを取らないものを選びがちです。もちろん、それも大事なことですけれど、個人的には映画はビジネスでもあり、もちろん芸術でもあると思っているので、本人たちの作家性が前面に出たものは、もっとあってほしいのです。リスクを取らないという意味で、オリジナル作品には、新人俳優を起用することも多いのですが、今回は草彅剛という日本のトップスターが出演してくれたことも含めて、意義のある作品になったと思います」と胸を張った。
最後の挨拶で草彅は「世界中の皆さんにこの作品を観ていただきたいと思っています。とてもデリケートな問題も描かれていますが、みなさんが考えるきっかけになっていただけたらうれしいなと思っています。自分自身が本当に“いい作品だな”と思える映画に出演できたことがとてもうれしいです。この感動を 1 人でも多くの方に届けられたらいいなと思っています。皆さん、どうぞ
よろしくお願いいたします」と呼びかけた。内田監督は「おかげさまで、興行的にもヒットしていて、大変よろこばしいことと思っています。規模としては決して大きくないけれど作家性の強い作品を、多くの人が観てくれていることがうれしいです。さらに多くの人に観てほしいと思っています。作品の背景にある差別やジェンダーの問題について、少しでも考えるきっかけ、その第一歩になってくれたらいいなと願っています」とアピールし、記者会見を締めくくった。
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