君は『インビクタス/負けざる者たち』を覚えているだろうか。日本を感動の渦に包み込んだラグビー・ワールドカップ。流行語大賞にもなった“ONETEAM/ワンチーム”で試合に臨んだ日本代表選手は、勝利を目指して固い絆で結ばれていた。「ワンチーム」というマインドは、全選手、スタッフたちは一丸となった。半端ない気迫、どのチームにも負けない勝利への執念、そして、試合のために積み上げてきた練習を糧に試合に挑むファイティングスピリット。すべてが集約された時、彼らのプレーひとつひとつは、世界を驚かせ日本を熱狂させる感動の渦を巻き起こしたのだ!
イーストウッドは、2009年にラグビーを題材にした『インビクタス/負けざる者たち』を撮っている。1995年に南アフリカで開催されたラグビー・ワールドカップを舞台にした実話だ。長い投獄生活から解放されたネルソン・マンデラは、1990年に南ア史上初の黒人大統領に就任。長く続いてきた支配的な白人によるアパルトヘイト(人種隔離政策)を改善するため、マンデラは当時低迷していたラグビーチームに目をつける。白人選手が大半のチームに黒人選手を加えた混成チームに編成、融和政策の象徴にしたのだ。人種を越えた“ワンチーム”を作るという難題を任された主将フランソワ・ピナールを、現在公開中の『フォードvsフェラーリ』のマット・デイモンが演じている。「インビクタス」とは、屈
服しない精神を意味するラテン語で、「負けざる者たち」というサブタイトルがつけられた。
イーストウッドが描く実在人物たちは、決して屈服しない。
クリント・イーストウッドは、どんな困難にも立ち向かう市井の人々を描き続けてきた。アメリカ軍の猛攻を受ける島に赴いた栗林忠道陸軍大将を渡辺謙が演じて日本でも大ヒットした『硫黄島からの手紙』(06)は、勝利なき戦いに向かった日本兵の最後の日々を綴った。失踪した息子の取り違えを描いた『チェンジリング』(08)では、メディアをコントロールし、絶対的な権力を持つ警察に単身立ち向かう勇気ある女性が主人公だった。そして、トム・ハンクスを迎えた『ハドソン川の奇跡』(16)では、パイロットとして155人もの人命を救った英雄が、一転して容疑者とされた実話にフォーカスした。これらの作品にあるのは、身に余る巨大な敵を前にしても自らの信念と正義を信じて戦い続けた、どこにでもいる人々の姿だ。そして、彼らに共通するのが、決して屈服しない精神で立ち向かったということだ。クリント・イーストウッドは、全くタイプの異なる実在人物を描いてきたことについて、「みんな違う。異なるからこそ現実の英雄なのだと思う。それぞれが違う人間が人生のなかで異なる困難に直面する。それでも彼らは苦境に立ち向かっていく。それが英雄の共通点なんだ」と語っている。
現在公開中の『リチャード・ジュエル』は、1996年のアトランタ爆破事件を描く。事件の第一発見者として数多くの人々を救ったリチャード・ジュエル(ポール・ウォルター・ハウザー)の物語だ。警備員として献身的な働きが讃えられて一躍ヒーローとなるが、数日後にFBIの捜査情報が漏洩し、地元メディアが「リチャードを捜査中」と実名報道したことで状況は一転する。爆弾犯扱いされたリチャードは、名誉もプライバシーも奪われてしまう。母ボビ(キャシー・ベイツ)とふたり暮らしの彼に救いの手を差し伸べたのは、体制に与することを嫌う無謀な弁護士ワトソン(サム・ロックウェル)だけ。ふたりの前には、事件解決を急ぐFBIの横暴な捜査、スクープを求めて自宅に押しかけるメディアの罠が待ち受けている。
リチャードとワトソンは母ボビに見守られて、固い絆で結ばれた“ワンチーム”となって巨大な敵に立ち向かっていく。自分は潔白だという揺るぎない信念を持つリチャードは、まさか自分がFBIに逮捕されるはずがないと進んで捜査に協力する。そんな姿を見て、兄貴分のワトソンは自分の首を絞めるだけだと諭す。時には父が我が子を叱りつけるかのように厳しく叱る。そんな時、リチャードはまるで駄々っ子のような素振りで応じる。切れ者弁護士ワトソンを演じたサム・ロックウェルは、「ふたり芝居のようにも感じたし、リチャードを演じるポールとのアンサンブルのようにも感じた。ふたりの間にあるのはただの友情ではない。リチャードにとってワトソンは父親または兄のような存在だ。ふたりの間には常に信頼がある。そんな彼らの関係性はこの映画の核となるものだ」と語る。サムの言葉の通り、『リチャード・ジュエル』は冤罪をめぐるサスペンスだけではなく、“固い絆”で結ばれたふたりを描くバディムービーとしての面白さに満ちているのだ。
今、爆弾犯にされたリチャードと無謀な弁護士ワトソン、ワンチームとなったふたりが反撃を開始する。
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