「あさってDANCE」「BLUE」「ありがとう」などで熱狂的なファンを獲得し、連合赤軍をモデルにした「レッド」で文化庁メディア芸術祭漫画部門の優秀賞を受賞した山本直樹。数多くの映像化作品もあるこのコミック界の人気作家は、性愛に溺れる人間たちの悲哀や滑稽さを、過激なまでに大胆な官能描写とともにあぶり出す鬼才として名高い。そんな山本のエロス漫画「ファンシー」は、1998年発行の「学校」に収録された異色の短編(2009年発行「夕方のおともだち」再収録)。国内外の話題作で圧倒的な存在感を放っている名優、永瀬正敏を主演に迎え、このうえなくユニークにして狂おしい実写映画化が実現。
とある地方の寂れた温泉街。時が止まったように昭和の面影を色濃く残すこの町で彫師稼業を営む鷹巣明(永瀬正敏)は、昼間は郵便配達員として働き、町外れの白い家に住む若き詩人にファンレターを届けている。一日中サングラスをかけている謎めいた鷹巣と、ペンギン(窪田正孝)と呼ばれる浮世離れしたポエム作家はなぜかウマが合い、毎日たわいない雑談を交わしていた。そんなある日、ペンギンのもとに彼の熱狂的なファンである月夜の星(小西桜子)という女子が「妻になりたい」と押しかけてくる。折しも地元の町では、ヤクザの抗争など血生臭い出来事が続発。やがてニヒルで粗暴な鷹巣、ロマンティストで性的不能のペンギン、少女のように夢見がちな月夜の星が陥った奇妙な三角関係は、激しく危うげに捻れていくのだった......。
河瀬直美監督と組んだ『あん』『光』『Vision ビジョン』、ジム・ジャームッシュ監督との久々のコンビ作『パターソン』における名演も記憶に新しく、国内外のフィルムメーカーからの出演オファーが絶えない永瀬正敏が演じるのは、ミステリアスな元彫師の郵便屋。虚無的にして粗暴でありながら、なぜか懐の深い人間味をも感じさせるこの主人公と、ロマンティックな詩を紡ぐペンギンが織りなす摩訶不思議な友情劇に目を奪われずにいられない。山本直樹の原作漫画でペンギンそのものとして描かれる詩人の奇想天外なキャラクターを、映画やドラマに引っ張りだこの実力派、窪田正孝が唯一無二の存在感で体現しているのも必見である。対照的なふたりの男性の間で少女から女へと艶めかしく変貌を遂げる月夜の星に扮し、体当たりの熱演を披露するのは小西桜子。2019年の第72回カンヌ国際映画祭に出品された三池崇監督、窪田正孝主演のラブ・ストーリー『初恋』のヒロイン役にも抜擢された注目の新人女優である。また、鷹巣が務める郵便局の所長に田口トモロヲ、鷹巣の父親役に宇崎竜童、鷹巣に入れ墨を彫ってもらう殺し屋役に深水元基、鷹巣の元後輩でヤクザの組員に長谷川朝晴、ヤクザの若頭役に坂田 聡、鷹巣が働く郵便局の同僚役に吉岡睦雄、鷹巣の旧友役に榊󠄀 英雄、鷹巣の元妻役に佐藤江梨子 といった個性豊かなベテラン、中堅俳優たちが脇を固め、泥船のごとき人生を生きる人間たちのおかしみと哀感に満ちた群像ドラマを彩っている。
(C)2019「ファンシー」製作委員会
2020年2月7日(金) テアトル新宿ほか全国順次公開
配給:日本出版販売