『凶悪』を世に送り出して以降、毎年のように作品・監督・俳優賞を中心に国内賞レースを席巻し、いま俳優たちが最も出演を熱望する映画監督のひとり、白石和彌監督の最新作『ひとよ』が全国公開中。
いまを強く生きる人間たちへの賛歌を圧倒的な熱量で描いてきた白石和彌監督が「いつかは撮らねばならない」と感じていたテーマ【家族】へ、初めて真正面から挑み、15年前の事件によって家族の岐路に立たされた、ひとりの母親とその子どもたち三兄妹のその後が描かれる本作。
第44回報知映画賞では、作品賞、監督賞(白石和彌監督)、主演男優賞(佐藤健)、主演女優賞(田中裕子)、助演女優賞(MEGUMI)と5部門にノミネート!受賞の行方にも熱い視線が集まっています。
この度、絶賛公開中の本作のティーチイン・イベントが 11月17日、東京の TOHO シネマズ日比谷で行われ、メガホンをとった白石和彌監督のほか、主演の佐藤健が飛び入りで登場した。観客との質疑応答を 1問終えた白石監督はおもむろに「誰か来られないか?と Twitter でつぶやいたら、音尾琢真君がすぐに『行けない』と返答してきた」とジョークで笑わせつつ呼び込んだのは、なんと稲村家の次男・雄二を演じた佐藤だった。この粋なサプライズに観客は大興奮。Q&A も熱を帯びたものとなった。
カットされて残念だったシーンの話になると、佐藤は「カットされることに関して僕は前向き。残念には思わない。良くなかったからカットされたわけで、カットされてありがとうぐらいに思う役者です」と俳優としてのポリシー告白。稲村家の長男・大樹(鈴木亮平)と別居中の妻を演じた MEGUMIとの激しく口論するシーンがカットされたそうだが、白石監督は「いいシーンだったけれど、それがあると長男のシーンが続きすぎて、長男の映画になり過ぎると思った」と映画全体のバランスを考慮してのカットだったことを打ち明けた。また感情を揺さぶるラストシーンの秘話を求められた佐藤は「監督が急にバナナを持ってきて驚いた」と明かすと、白石監督は「筑前煮も撮影場所のタクシー会社の方々が出してくれたもので、とても美味しくて。それもその場の判断で雄二に持って行かせようと思った。田舎って何かをお土産に持って行かせようとすることってありますよね」と細部にもリアリティを追求。稲村家の家族写真にもこだわりがあり、佐藤は「もらったバナナを持って写真に写ろうとか、(稲村家の長女・園子役の)松岡茉優さんがはじけたバージョンとか、数パターンを撮影したけれど、使用されたのは全員が真面目な顔の写真でした」と舞台裏を紹介した。
ラストの車中のシーンは 2 テイク撮影したというが、白石監督は「使用したのはファーストテイク。健君の目に涙が溜まっている感じがよかった」と採用理由を明かし、「実はそのシーンでは、僕が健君の横でヤドカリみたいに小さく丸まって隠れていました。現場は結構グチャグチャでしたよね」と静けさとは真逆の撮影状況を回想していた。
また好きなシーンについて聞かれた白石監督は、意外なことに役者陣との絡みのシーンではなく「太陽」と返答。「急に撮りたいと思って。映画『太陽を盗んだ男』みたいなものを撮りに行こうと意気込んだら、一発で撮れた。日の出って実は撮るのが難しい。だからなんでこんなところで俺は運を使ってしまうのか...と思った」と苦笑いも、思い入れの深いカットになったようだった。
初タッグとなった本作を通して白石監督に全幅の信頼を寄せている佐藤は、次なるタッグに向けて「色々なアイデアがあります。一つには絞れない」と構想を練っているようで「いつか時代劇をやりたいと白石監督は現場でおしゃっていましたよね?」と確認。それに白石監督は「まだ一度も時代劇はやったことがないので。アクションものの時代劇もいいかも」と佐藤との第 2 作になるかどうかは不明だが、新境地開拓に意欲を見せていた。
最後に白石監督は「沢山の方々に映画を観て頂けているけれど、まだまだ観てほしいので応援宜しくお願いいたします」とメッセージ。佐藤は「映画界を成長させていくには、作品を観る側のみなさんの力も必要です。ぜひ一緒に映画界を盛り上げていきましょう」と思いを込めていた。
(c)2019「ひとよ」製作委員会