P.N.「オーウェン」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★★
- 投稿日
- 2024-05-17
※このクチコミはネタバレを含みます。 [クリックで本文表示]
このキム・ジウン監督の韓国映画「悪魔を見た」は、理不尽な復讐劇「眼には眼を」を思い出させる、ダークサイドのカタルシスすらない、プロ同士のメンツを賭けた復讐劇だ。
恋人を快楽殺人者に殺された男の復讐を描いた作品で、言ってしまえば、この作品はそれだけの内容だ。
ただ、被害者の恋人が国家情報院の捜査官というプロのスキルを持ったエリートだったことと、殺人鬼がプライドもモラルもない本物の鬼畜だったことで、人間の道徳的な尊厳に集中攻撃をかけるような、異様なテンションの復讐劇に仕上がっているのだ。
しかし、ここには、パク・チャヌク監督の”復讐三部作”のようなダークサイドのカタルシスすらない。
異常殺人者としてのチェ・ミンシクの演技は、もう絶品としかいいようがない。
この男に拉致されたら、絶対に生きて帰れないと覚悟するしかない。
しかも、困ったことにこの男、鬼畜なのに妙な愛嬌があるところだ。
一方、復讐者であるイ・ビョンホンは、エリート捜査官特有のクールさで、一見ヒーローのようだが、せっかく捕まえたチェ・ミンシクを、半殺しの目に遭わせながら、追跡装置を飲ませて放逐してしまうのだ。
これは、エドガー・アラン・ポオの小説にもあった「希望という名の拷問」を試みたのか知らないが、生き永らえさせることによって、悔恨の涙を流させるまでいたぶるのが目的なのだろう。 また、面白かったのは、チェ・ミンシクが同じ殺人鬼の仲間に助けを求めるところだ。 こちらはペンションの一家を面白半分に切り刻む殺人鬼の夫婦だ。 その男が言うには、「あいつは俺と違って、苦しめる前に楽しませる奴だからな。そいつも俺たちと同じ、狩りをする時の快感を楽しんでるんだ」と。 このように、快楽殺人者は、ある面で哲学者でもあるんですね。 復讐者が目的のために手段を選ばなくなった時点で、殺人者と同列になるというのは、復讐を題材にした映画ならば避けては通れないジレンマだが、この作品でキム・ジウン監督が目指したのは、また別の次元で、殺しのスキルを身につけたプロが、プライドを賭けて復讐を実行したら、殺人鬼以上に残酷な手口を考え出すということだ。 恋人や家族の死は、ただの巻き添えでしかなく、プロ同士のメンツを賭けた対決こそが、この作品のテーマなのだと思う。