P.N.「オーウェン」さんからの投稿
- 評価
- ★★★☆☆
- 投稿日
- 2024-06-01
この映画「ヒトラーの贋札」は、ナチスが強制収容所のユダヤ人に大量の贋札を作らせて、英米の経済を撹乱しようとした「ベルンハルト作戦」に基づく物語だが、描き方は、フィルム・ノワール風のサスペンスになっている。
冒頭は、第二次世界大戦後、解放された、その収容所から生き残ったユダヤ人、サリーが、モンテカルロのカジノで、かつて自分が作ったらしい贋金の一部を蕩尽するシーンだ。
サリーが渋くイキな老遊び人風なので、最初から、この映画がフィクションであるかのような印象を与える。
サリーのような国際的な贋札職人や、印刷技師や、皆、贋札作りに役立つ人間をかき集めてきて、特別の待遇を与えて、組織的に贋札を作らせるナチだが、そのナチ親衛隊員の描き方は、これまでよく見せられて来た一面的なものになっていると思う。
命令し、言うことを聞かなければ、頭にピストルを向けて殺す。やたらと暴力をふるい、捕らわれた者たちは、怪我がたえない。食事は、一般のユダヤ人と比べれば、恵まれているとしても、相当ひどい。
食事に関しては、その通りだったとしても、ナチ親衛隊員というのは、皆このように判で押したような人間ばかりだったのだろうか? もうそろそろ、このようなステレオタイプのパターンには正直、飽きてきた。 贋札工場のユダヤ人の中には、ユダヤ系スロバキア人の共産党員のアドルフ・ブルガーのような人間もいる。 彼は、ナチへの反抗のためか、与えられた作業服を着ず、縞模様のナチの囚人服を着続ける。 また、ユダヤ系ロシア人で、カンディンスキーやバウハウスに共感しているらしいインテリ美術生のコーリャのような者もいる。しかし、映画の視点は、終始サリーに当てられていて、そうした異なる個性が、ドラマに活かされてはいない。 どのみち映画は映画なのだから、こうした贋札工場のユダヤ人たちが、ナチ親衛隊員にいっぱい食わせたというような作りでもよかったような気がする。 実際に、1950年代になって、オーストリアの湖から、この作戦の時に作られた贋札や道具が詰まった箱9個を見つけたという。 ならば、もっと解放的な話にした方がよかったのではないかという気がする。