P.N.「オーウェン」さんからの投稿
- 評価
- なし
- 投稿日
- 2024-06-20
※このクチコミはネタバレを含みます。 [クリックで本文表示]
この人気俳優二人の影に隠れがちだが、映画の隠れ主役とも言えるのは、エリック・バナ演じるトロイの王子ヘクトル。
「ハルク」では、訳の分からぬ役柄で困惑していたバナだが、実は史劇も似合う正統派だ。
ヘクトルは、妻子や親兄弟、そして何より国と平和を愛する、物語随一の常識人だ。
まっとうな英雄が悲劇に向かうことで、物語は劇的に転がり始める。
トラブルメーカーで、へっぴり腰のパリス王子も、この兄の勇姿を見てようやく奮起する。
語り部にして、知将オデッセウス役のショーン・ビーンも、少ない出番ながら渋く効いていた。
有名なトロイの木馬は、彼の発案。
どう考えても怪しいこの作戦が、上手くいくところが古代だ。
神と人間が同居する古代ギリシャの物語を、人間側のドラマに絞ったことで、判りやすくまとまった。
対面や不条理で始まる争いの愚かしさや、戦争の空しさも現代に通じる。
しかし、この映画にはいっさい神が登場しないのがなんとも物足りない。 もともとは、3人の女神の美しさを競ったことが原因で起こったトロイ戦争。 映画では、不倫が元での国同士の大喧嘩のような印象だが、人間だけでなく、神々もまたトロイやギリシャ側につき、この長い戦争に参加したのだ。 事態は複雑を極め、更なる局面を生み、その中に真理が隠されている。 話が判りやすくなった分、伝説の持つ歴史ロマンとしてのスケールの幅が奪われた感は否めない。 聖書と共に西欧文明の二大基礎となったギリシャ神話。 単純な善悪では塗り分けられないエピソードと、魅力溢れる多くの英雄たちが活躍する、非常に映画的な素材だ。 ギリシャ神話というのは、荒唐無稽な物語の集合でありながら、実にうまく辻褄があっているのが特徴だ。 エンターテインメントとして十分な水準に達している作品だが、惜しむらくはそこに気まぐれな神の視点を少しだけ追加して欲しかった。