P.N.「オーウェン」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★★
- 投稿日
- 2025-04-17
※このクチコミはネタバレを含みます。 [クリックで本文表示]
山奥にひっそりと建った古寺。その古寺は、そそり立つ険しい山々に囲まれ、鏡のように静かな湖の真ん中に浮かんでいる。
景色が四季にうつろう美しい在り様を眺めるだけでも、この映画を観る価値は十分にあると思う。
山と湖の遠景は、山水画を見ているような趣があるし、寺の建物や湖の周辺の樹々はくっきりとその姿を示している。
一分の緩みもなく緊密に組み立てられた映像が、俗世と完全に隔絶されたありのままの自然を、それだけでひとつのスペクタクルにしていると思う。
ただ、そうは言っても、その景色の中にいる”人間の在り様”が、この映画の大きなテーマであることは言うまでもないだろう。
春のうららかな萌える青葉を背景に描かれるのは、老僧に育てられる幼年僧の無邪気な行動と、それによって知らずに発した生類への罪を問う挿話だ。
夏の生命力みなぎる深緑を通しては、少年になった僧が少女に恋心を抱き、彼女を追って町へ出奔するいきさつが語られる。
秋の燃える紅葉の下、十数年ぶりに帰って来た時には、妻に手を賭けた殺人犯になっており、ここで自殺を図る。
老僧に導かれ刑に服した後、その跡を継いで廃墟となった寺を守って峻烈な修行を自らに課す姿が雪と氷で白一色の厳冬風景とともに映し出される。
幼少青壮それぞれを別の役者が演じ、一人の人生というより人間全般の一生を象徴的に追いかけていく。
そして、そこには、”人間の存在そのものがもたらす罪深さ”が、常に意識されているのだ。
しかし、一方で、再び春が訪れることは、”救い”を感じさせてもくれるのだ。