P.N.「グスタフ」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★☆
- 投稿日
- 2019-10-21
耽美主義による女性の性と心の相克を描いた異色作で、溝口演出もいつもより暗示的なものになっているが、戦後の不振から抜け出たような安定感がある。男と女の怪しげな雰囲気と朝霧に霞む湖畔のシーンの美しさが溶け込み、独自の世界観が繰り広げられる。旧華族雪夫人を演じる小暮美千代が女性の色香を上品に醸し出して好演。放蕩の限りを尽くす夫直之、雪夫人の愛に答えられない琴奏者方哉、乗っ取りを企てる立岡とクズ男ばかりの極端な設定で、雪夫人の弱さが強調されている。愛欲シーンは当時の表現限界に抑えられていて、今より遥かに刺激的なのは興味深い。後の「雨月物語」にある幻想的な溝口演出を垣間見れるところも魅力だ。