P.N.「グスタフ」さんからの投稿
- 評価
- ★★★☆☆
- 投稿日
- 2019-10-23
武蔵野台地に歴史を持つ家柄のひとり娘道子と従弟勉の恋愛ドラマ。戦後日本の自由恋愛の道しるべを、スタンダールのフランス文学に傾倒した道子の夫忠雄が解説する内容で、原作者大岡昇平の分身になるのか。ただし、このインテリを森雅之が巧みに演じるも、姦通を否定しない自由論者で正義感のある男としては描かれていない。この夫婦に道子の従兄大野夫婦を加えた5人の会話劇としては面白い。自由奔放な恋愛観を持つ妻富子と忠雄の絡むところなど溝口監督らしい色が出ている。また、復員してきた勉に道子が接近するのを恐れる忠雄の嫉妬に、インテリ男の弱い内面が嫌らしく出ていていい。
しかし、道子と勉の関係は凡庸で、美しい背景を舞台にする耽美的な演出が盛り上がらない。小説を読むように観る映画の範疇に終わっている。田中絹代、森雅之、片山明彦、轟夕起子、山村聡と適役とも言い切れないキャスティング含め、溝口映画としては成功していない。すべての違和感を楽しめる自分は好きな映画だけど。