P.N.「グスタフ」さんからの投稿
- 評価
- ★★★☆☆
- 投稿日
- 2019-10-16
一言でいえば、鈍感な映画である。立派な主張が主人公たちから述べられているが、本物に聞こえない。身体の動きが付いていってない。溝口の演出にそれを修正する気力もないようだ。戦後第一作の、時勢を反映した民主主義のスローガンだけが唯一の関心事で、巨匠の得意とするリアリズムの鋭さがない。
物語は、夫を失い極貧となり精神を病んだ末、わが子を殺めた女性を、主人公が裁判の担当弁護士になり救うという話。主人公は、戦前の男性優位の封建的な社会に罪があり、被告の無罪を主張する。これでは、過去を否定するために創作された極端な作り話としか思えない。虐げられた女性を描くのが溝口の手腕ならば、主人公は弁護士ではなく、被告の女性にするべき題材だろう。溝口作品で裁判劇というと名作「滝の白糸」があるが、比較してはいけない。これはGHQの支配下のやむにやまれぬ仕事と捉えるべきである。