P.N.「グスタフ」さんからの投稿
- 評価
- ★★★☆☆
- 投稿日
- 2019-10-17
※このクチコミはネタバレを含みます。 [クリックで本文表示]
明治大正時代の新劇運動の主導者島村抱月と松井須磨子の恋愛悲劇。溝口監督らしい題材だが、結果失敗に終わる。ドラマと云うよりストーリーを観ているようだ。須磨子の田中絹代がイプセンの「人形の家」のノラを演じ、芸術座で「カルメン」を踊るのが、締まりがなく西洋かぶれの時代再現に終わっている。実話を基にした脚本だから仕方ないが、離婚した須磨子を女性解放の象徴にしたり、彼女の影響を受けた養子の抱月が自由恋愛の象徴で家も妻子も学校も棄てるのが、場当たり的で身勝手過ぎる。抱月の娘の結婚話では、父抱月の立場が何とも弱弱しく情けない。芸術座の地方公演が成功するところは説明的で溝口得意のリアリズムがなく、最後はドラマチックな盛り上がりがなく終わる。棄てられた妻子が須磨子の前に現れる場面は、本来の溝口なら見せ場を作れたはずだ。溝口と須磨子に微妙な距離がある。