生きものの記録 作品情報

いきもののきろく

都内に鋳物工場を経営しかなりの財産を持つ中島喜一は、妻とよとの間に、よし、一郎、二郎、すえの二男二女がある、ほか二人の妾とその子供、それにもう一人の妾腹の子の月々の面倒までみている。その喜一は原水爆弾とその放射能に対して被害妾想に陥り、地球上で安全な土地はもはや南米しかないとして近親者全員のブラジル移住を計画、全財産を抛ってもそれを断行しようとしていた。一郎たちはこの際喜一を放置しておいたら、本人の喜一だけでなく近親者全部の生活も破壊されるおそれがあるとして、家庭裁判所に対し、家族一同によって喜一を準禁治産者とする申立てを申請した。家庭裁判所参与員の歯科医原田は「死ぬのはやむをえん、だが殺されるのはいやだ」という喜一の言葉に強く心をうたれるのだった。その後もブラジル行きの計画を実行していく喜一に慌てた息子たちの申請により、予定より早く第二回の裁判が開かれた。その結果、申立人側の要求通り喜一の準禁治産を認めることになった。喜一の計画は、この裁定にあって挫折してしまった。極度の神経衰弱と疲労で喜一は昏倒した。近親者の間では万一の場合を考えて、中島家の財産をめぐる暗闘が始まった。その夜半、意識を回復した喜一は工場さえなければ皆も一緒にブラジルへ行ってくれると考え、工場に火を放った。灰燼に帰した工場の焼け跡に立った彼の髪の毛は一晩の中に真白になっていた。数日後、精神病院に収容された喜一を原田が見舞いに行くと、彼は見ちがえるほど澄み切った明るい顔で鉄格子の病室に坐っていた。地球を脱出して安全な病室に逃れたと思い込んでいる喜一を前にして原田は言葉もなく立ちつくすのであった。彼の気が狂っているのか、それとも恐ろしい原水爆の製造に狂奔する現代の世界が狂っているのか。

「生きものの記録」の解説

「生きとし生けるもの」の橋本忍、「おしゅん捕物帖 謎の尼御殿」の小国英雄、「七人の侍」監督以来の黒澤明の三人が共同で脚本を書き、黒澤明が監督、「制服の乙女たち」の中井朝一が撮影を担当した。主なる出演者は「宮本武蔵(1954)」の三船敏郎、「夫婦善哉」の三好栄子、宝塚歌劇団の東郷晴子(東宝入社第一回)、「姿なき目撃者」の志村喬、「おえんさん」の清水将夫、「朝霧(1955)」の青山京子、「やがて青空」の太刀川洋一、「獣人雪男」の根岸明美など。

公開日・キャスト、その他基本情報

キャスト 監督黒澤明
出演三船敏郎 三好栄子 東郷晴子 清水将夫 佐田豊 千石規子 千秋実 青山京子 根岸明美 上田吉二郎 水の也清美 米村佐保子 太刀川洋一 志村喬 加藤和夫 大久保豊子 三津田健 小川虎之助 宮田芳子 渡辺篤 東野英治郎 藤原釜足 谷晃 大村千吉 清水元 土屋嘉男 左卜全 中村伸郎
配給 東宝
制作国 日本(1955)
上映時間 103分

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ユーザーレビュー

総合評価:5点★★★★★、2件の投稿があります。

P.N.「オーウェン」さんからの投稿

評価
★★★★★
投稿日
2024-06-01

この映画「生きものの記録」は、黒澤明監督が原水爆反対の立場を表明した映画ですが、興業的には失敗したと言われています。

黒澤監督の数少ない興業的な失敗作だと言われているこの作品を、自分の眼で確かめるために鑑賞しましたが、黒澤監督のこの映画に賭ける熱意、訴えずにはいられない強いメッセージ性がストレートに伝わってきて、何故ヒットしなかったのかが不思議なくらいの素晴らしい映画だと思います。

主人公は若き三船敏郎が演じる町工場の経営者・中島喜一。
この老人は実にエネルギッシュで、前半のイメージは、大家族を率いたゴリラかオランウータンというような感じで、三船の獣のような動物的な野性味に溢れています。

そして、この老人は原水爆の実験に脅威を感じ、この地球上で安全な場所は南米にしかないと考えるに至り、”核実験の死の灰”から逃れるために、彼は一族全員を連れてブラジルへ移住しようとするのです。

このことを知って慌てた家族の者たちが、父親を準禁治産者にする訴えを起こします。
財産を自由に処分出来ない準禁治産者に認定してもらうためなのです。

最終更新日:2024-06-11 16:00:02

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