P.N.「pinewood」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★★
- 投稿日
- 2024-08-17
早稲田松竹の映画瞳を閉じてとファースト・カウの二本立てには本篇のモーニング特別上映がプログラミングされていた。一体どう云う意図か謎だったけれども,2作を見終えてからラストシーンにヒントが在る様に想え,二人の監督が敬愛する溝口健二監督の本作に観られる幻想性だと気付いた。何だかモヤモヤ感が残る両作は牛=カウのキーワードと共に現実の瞳で見えない世界の真実を求めて居たんではないかとと
うげつものがたり
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早稲田松竹の映画瞳を閉じてとファースト・カウの二本立てには本篇のモーニング特別上映がプログラミングされていた。一体どう云う意図か謎だったけれども,2作を見終えてからラストシーンにヒントが在る様に想え,二人の監督が敬愛する溝口健二監督の本作に観られる幻想性だと気付いた。何だかモヤモヤ感が残る両作は牛=カウのキーワードと共に現実の瞳で見えない世界の真実を求めて居たんではないかとと
雨月物語を観たのはもう何年も前のことだ。だが初めて観た時の衝撃は決して忘れることができない。それがきっかけで私は溝口健二さんの大ファンになったのだ。最近、この映画を観て、やはり素晴らしいと思った。これは戦禍の荒廃のリアリズムと幻想性がたまらないからだ。また観たくなる作品だ。
1952年の「西鶴一代女」から1954年の「近松物語」までの溝口晩年の成熟の極みを呈する作品群は、日本映画における最重要な遺産と云わざるを得ない。中でも「雨月物語」は特別な存在です。前年の「西鶴一代女」で国際賞を得た溝口監督は、今作で金獅子賞を狙っていましたが、惜しくも銀獅子賞に終わり悔やんだそうです。審査委員の評価は、ラストが甘いというものでした。溝口監督の本意も、結末に満足していなかったとあります。それでもここには、日本的な幽玄美が見事に表現されています。京マチ子演じる死霊若狭の怪しげな美しさと恐ろしさ。幽霊屋敷の幻想的な雰囲気。源十郎のいる岩風呂に若狭が入ると水が溢れ、零れ落ち池の場面に続く流麗な映像美。帰郷した藤十郎を温かく迎える妻宮木を映すキャメラの一回転。美術、撮影、音楽が三位一体となった様式美が完璧です。ただ最後、藤十郎の懺悔の涙を見せても良かったのではないか。約40年前、フィルムセンターでの鑑賞時、ラストシーンで或る青年が周りに憚らず号泣し、男泣きしながら劇場を後にするのを間近で接しました。この衝撃を含めて、名作「雨月物語」に対する私のレビューです。
溝口健二監督の本編は墨絵の様な濃淡が余りにも美しく、流麗な影絵の如き撮影術が国際的に絶讚された作品!原作は上田秋成、それにモーパッサンの「勲章を貰ったぞ」。井原西鶴や近松門左衛門等、江戸の戯作家もので人間の金銭欲や愛憎劇を赤裸々に描く監督の手腕が此処でもフルに発揮された。亡き妻の幻視に続くラストシーンは〈山椒太夫〉と並ぶ無常と祈りでも在った。