ひとり狼 感想・レビュー 1件

ひとりおおかみ

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P.N.「オーウェン」さんからの投稿

評価
★★★★
投稿日
2025-04-17

大映映画「ひとり狼」は、村上元三の原作を池広一夫監督、市川雷蔵主演で映画化した、正統派股旅映画の佳作だ。

加藤泰監督の「沓掛時次郎・遊侠一匹」や山下耕作監督の「関の弥太っぺ」が、同じ本格的なヤクザを描きながら、彼の心の底に眠る静かな情感を、ロマンチシズムの中で、巧みに描き出したのとは違い、この「ひとり狼」は、あくまでも非情に硬質に主人公を流れさせる。

それは後に登場する「木枯し紋次郎」の世界に似て、冷たく研ぎ澄まされた、テロリスト的なアウトローの孤独な姿を描いている。

既成のあらゆるものを信じなくなった一人の男が、儀礼的な儀式のみにすがることによって、自己を守っていく姿は、混乱した状況の中における一つの生き方なのかもしれない。

情も捨て、信奉も捨てて、流れることにのみ行動の意味を把握しようとする、永久流転の”ひとり狼”は、かつてのビートとかヒッピーとか言われたような時代風俗者たちとは違い、永久に自己を大切にしようとする楽天主義者なのかもしれない。

いずれにせよ、この映画は過去の「沓掛時次郎・遊侠一匹」や「関の弥太っぺ」のように、情感に潜り込もうとすることなく、一見つかみどころのない混乱した状況を、冷たく様式化し、風景にのみ生きようとする直線的な行為者を描いたことによって、股旅ものの傑作になっていると思う。

そして、この人斬り伊三蔵に扮する市川雷蔵は、折り目正しい、端正な演技で、時代劇スターとしての貫禄を示し、下層アウトローの庶民的ニヒリズムを見事に演じ、晩年の代表作になったと思う。

最終更新日:2025-04-19 16:00:02

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