P.N.「オーウェン」さんからの投稿
- 評価
- なし
- 投稿日
- 2024-06-13
この「網走番外地」で主人公の橘真一は、しばしば「俺は馬鹿だ」と自嘲的に言いますがしかし、馬鹿と知りつつ、人間には、男には、やらねばならぬ事がある、やらねばならぬ時がある、というのが、高倉健映画の根本的なテーマでもあるのです。
橘真一というキャラクターの造形から表現された”日陰者のパトス”で、多くの大衆を魅了した、この高倉健という稀代の俳優が、後に国民的な大スターになる地位を築いたのは当然の事だと思います。
あばしりばんがいち
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この「網走番外地」で主人公の橘真一は、しばしば「俺は馬鹿だ」と自嘲的に言いますがしかし、馬鹿と知りつつ、人間には、男には、やらねばならぬ事がある、やらねばならぬ時がある、というのが、高倉健映画の根本的なテーマでもあるのです。
橘真一というキャラクターの造形から表現された”日陰者のパトス”で、多くの大衆を魅了した、この高倉健という稀代の俳優が、後に国民的な大スターになる地位を築いたのは当然の事だと思います。
当時の日本映画界において、例えば、日活の石原裕次郎が上流階級、小林旭が中流階級といった雰囲気を醸し出していたのに対して、高倉健は最下層のどん底の境遇に育った主人公を演じる事によって、この大ブレイクのきっかけを掴んだのです。
北海道の雪原が大自然の猛威を奮う零下30度の過酷な風景や、新宿の歌舞伎町を足早に急ぐ高倉健を、ゲリラ撮影で追跡した夜の新宿の生々しいビジュアル感----。
そして、甘い声の石原裕次郎、甲高い声の小林旭になくて、高倉健の特徴としてあったもの、それがドスの効いた低い声で、それが、彼の演技においても、映画が最も盛り上がる最後の正念場において、腹の底から押し殺した低い声で発する”極め台詞”が、それまでのストイックで寡黙な主人公の最高の武器になるのだと思います。
チャンバラ時代劇から任侠映画路線への転換期に生まれた、1960年代の東映プログラム・ピクチャーの記念碑的大ヒット作品で、高倉健が大ブレイクするきっかけとなった作品でもあるのが、石井輝男脚本・監督による「網走番外地」です。
伊東一の原作から、題名と舞台設定を採り入れて、スタンリー・クレイマー監督、トニー・カーティス、シドニー・ポワチエ主演の「手錠のままの脱獄」をインストールしたアクションを描こうとする、奇才・石井輝男監督の試みは、網走刑務所に収監された受刑者の現在と回想シーンで、巧みに起伏をつけながら、クライマックスの大脱走へとストーリーを盛り上げていると思います。
極貧の不幸な家庭環境に育ち、ヤクザの道に入った主人公の橘真一は、暴力的な男の後妻になった母親が、ガンになったと聞き、死ぬ前に一目だけでも会って、これまでの極道を詫びたいとの一心から、仮出所を目前にして、脱獄の企てに乗ってしまいます。