飼育 作品情報
しいく
昭和二十年の初夏。或る山村へ米軍の飛行機が落ちた。百姓達の山狩りで黒人兵が捕まった。黒人兵は両足首に猪罠の鉄鎖をはめられ、地主鷹野一正の穴倉へ閉じこめられた。県庁の指令があるまで百姓達は、輪番制で黒人兵を飼うことになった。こんな頃に、鷹野の姪の幹子がこの村に疎開して来た。地主の一正は、豚のように貪欲で好色な男だ。息子の嫁の久子とも関係を結び、疎開もんの弘子にも野心を持っていた。村の少年達はクロンボが珍らしくてしょうがない。いつも倉にやって来ては黒人兵をみつめている。少年達と黒人兵はいつしか親しさを持つようになっていった。そこへ、余一の息子次郎が召集令をうけて村に帰って来た。出征祝いの酒盛りの夜、次郎は暴力で幹子を犯した。そして、翌日次郎は逃亡した。兄が非国民となって、弟の八郎は怒った。幹子のせいだ。幹子を責めた八郎は、皆に取押さえられて鷹野家の松に吊された。クロンボが八郎を慰めるように歌をうたった。八郎はクロンボも憎かった。こいつのために村中が狂ってしまったのだ。縄を切った八郎は、ナタを持ってクロンボに飛びかかった。その時、そばにいた桃子は突き飛ばされて崖下に転落、そして死んだ。伝松の息子が戦死したという公報が入った。みんなあのクロンボが厄病神なのだ。村の総意は、クロンボをぶち殺してしまえということになった。そうと知った少年達は、クロンボを逃がそうと図った。だが、飛びこんで来た一正が、ナタでクロンボを殺してしまった。それから数日して、書記が慌ててみんなに発表した。戦争が終ったのだ。みんなはあおくなった。もし進駐軍に知れたら。一正の発案でなにも起らなかったことにした。みんななにも見ないしなにもしなかったのだ。そのかための酒盛りの晩、次郎がかえって来た。もし発かくしたら、次郎が犯人ということで……。ところが次郎は書記と争ってあやまって死んでしまった。その火葬の火をバックに秋祭りの相談が行われた。何ごともなかったように。それはあたかも戦争そのものがなかったようでさえあった。その炎をじっとみつめている八郎の目には無限の悲しみと、怒りがこみあげていた。……大人たちは忘れ去ったとしても、この少年には戦争は決して消し去ることのできない心のキズであった。
「飼育」の解説
大江健三郎の同名小説を「悪人志願」の田村孟が脚色。「日本の夜と霧」の大島渚が監督した社会ドラマの異色篇。撮影は「あの波の果てまで」の舎川芳次。
公開日・キャスト、その他基本情報
キャスト |
監督:大島渚
原作:大江健三郎 出演:三國連太郎 沢村貞子 中村雅子 大島瑛子 山茶花究 岸輝子 三原葉子 牧江重行 京須雅臣 加藤嘉 石堂淑朗 入住寿男 島田屯 黒坂明二 今橋恒 横田利郎 竹田怯一 小山明子 上原京子 上原以津子 戸浦六宏 小松方正 槙伸子 ヒュー・ハード |
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配給 | 大宝 |
制作国 | 日本(1961) |
上映時間 | 105分 |
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ユーザーレビュー
総合評価:5点★★★★★、2件の投稿があります。
P.N.「オーウェン」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★★
- 投稿日
- 2023-12-13
この映画「飼育」は、大島渚監督の最初の独立プロ作品だ。
乗機を撃墜されて、山間の村に降りた黒人兵をめぐるこの映画は、日本の部落の天皇制に通じる支配構造と、人々の戦争責任と、その無責任さ執拗に追及している。
特に、日本映画では見たことがないほど、複雑怪奇な性格のボス(三國連太郎)を造型した点で、出色の作品になっている。
囲碁、大島渚監督の関心は、しばしば日本における権力の構造と、支配=被支配の関係の探求に向かうのだが、この作品はその原型で、ラストの少年の死線も、大島渚監督の原点のありかを示していると思う。