旅情(1955) 作品情報

りょじょう

アメリカの地方都市で秘書をしていた三十八歳のジェイン・ハドスン(キャサリン・ヘップバーン)は、欧洲見物の夢を実現し、ヴェニスまでやって来た。フィオリナ夫人(イザ・ミランダ)の経営するホテルに落着いた彼女は、相手もなくたった一人で見物に出かけ、サン・マルコ広場に来て、喫茶店のテイブルに腰を下した。しかし、背後からじっと彼女をみつめる中年の男(ロッサノ・ブラッツィ)に気づくと、あたふたとそこを去るのであった。翌日、彼女は浮浪児マウロの案内で名所見物をして歩いた。通りすがりの骨董店に入ると、そこの主人は昨日サン・マルコ広場で会った男だった。うろたえた彼女は十八世紀の品だというゴブレットを買い、そうそうに店を出た。その日の夕方、ジェインはまたサン・マルコ広場へ行った。例の男も来たが、彼女に先約があると感ちがいし、会釈して去って行った。翌日、彼女はまた骨董店へ行ったが、十七八の青年から主人は留守だといわれた。ジェインはこの店を記念に16ミリ・キャメラに収めようとして運河に落ち、みじめな恰好でホテルへ帰った。骨董店の主人レナートは、その彼女のホテルを訪れ、夜、広場で会おうと約束した。その夜の広場でジェインは初めて幸福感に浸り、思い出にくちなしの花を買った。別れるとき、レナートは彼女に接吻し、明夜八時に会う約束をした。翌日、彼女は美しく装って広場へ出かけたが、彼の店にいた青年がやって来て、彼が用事でおそくなることを告げた。青年がレナートの息子であることを聞いたジェインは、妻もいると知って失望し、広場を去った。ホテルへ追って来たレナートは妻とは別居しているといい、男女が愛し合うのに理屈をつけることはないと強くいった。ジェインはその夜、レナートと夢のような夜を過した。そしてそれから数日間、二人はブラノの漁村で楽しい日を送った。ヴェニスへ戻ったジェインは、このまま別れられなくなりそうな自分の気持を恐れ、急に旅立つことにきめた。発車のベルがなったときかけつけたレナートの手にはくちなしの花が握られていた。プラットフォームに立ちつくすレナートに、ジェインはいつまでも手をふりつづけた。

「旅情(1955)」の解説

ブロードウェイでヒットしたアーサー・ローレンツの戯曲『カッコー鳥の時節』から「ホブスンの婿選び」のデイヴィッド・リーンがヴェニスにロケイションして監督した一九五五年度作品。脚色はデイヴィッド・リーンと小説家のH・E・ベイツが協力して行った。テクニカラー色彩の撮影は「ホブスンの婿選び」のジャック・ヒルドヤード、音楽は「パンと恋と夢」のアレッサンドロ・チコニーニである。主演は「アフリカの女王」のキャサリン・ヘップバーンで、「愛の泉」のロッサノ・ブラッツィが共演、ほか「怪僧ラスプーチン」のイザ・ミランダ、ダレン・マッガヴィン、「裸足の伯爵夫人」のマリ・アルドン、「黒い骰子」のマクドナルド・パーク、ジェーン・ローズ、ガイタノ・アウディエロ、アンドレ・モレルなどが助演する。

公開日・キャスト、その他基本情報

キャスト 監督デイヴィッド・リーン
出演キャサリン・ヘップバーン ロッサノ・ブラッツィ イザ・ミランダ ダレン・マッガヴィン マリ・アルドン マクドナルド・パーク ジェーン・ローズ ガイタノ・アウディエロ アンドレ・モレル ジェレミー・スペンサー Virginia Simeon
配給 UA=松竹
制作国 イギリス(1955)
年齢制限 PG-12
上映時間 100分

ユーザーレビュー

総合評価:4.5点★★★★☆、2件の投稿があります。

P.N.「オーウェン」さんからの投稿

評価
★★★★
投稿日
2023-11-07

「旅情」は、ロマンチックな水の都ベニスを舞台に、後に巨匠となるデビッド・リーン監督が、大人の恋を情感あふれる映像で綴った愛の名作だと思う。

名曲「サマー・タイム・イン・ベニス」が終始流れて、旅先での恋という古典的なテーマを、最大限に盛り上げるが、この映画は、解放感に乗じた一時の戯れだけを表面的に描いた物語ではない。

モラルに縛り付けられて、温かい人間性を持たないかに見せる、キャサリン・ヘップバーンと、イヤな奴になりかねない、キザ男のロッサノ・ブラッツィのアンバランスな取り合わせが、美男美女が繰り広げる夢物語ではなく、現実の方向にドラマを傾かせているのである。

そして、真実の愛として悩んだ挙句に、旅行者として、その地を去ることを決意した女主人公の意識の変化が、一本の主軸を成して、一つの人間の在り方を提示してくるのだ。

最終更新日:2023-11-17 16:00:01

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