水の中のナイフ 感想・レビュー 5件
みずのなかのないふ
総合評価5点、「水の中のナイフ」を見た方の感想・レビュー情報です。投稿はこちらから受け付けております。
P.N.「オーウェン」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★★
- 投稿日
- 2024-05-21
※このクチコミはネタバレを含みます。 [クリックで本文表示]
そして、夫と青年の心理的な葛藤が頂点に達し、夫は青年を海に突き落とします。
妻は夫を卑怯者と罵って、青年を助けようとします。
夫もさすがに後悔して警察に知らせに行こうとする。
その間に青年がひとりで無事にヨットに上がって来るのです。
妻は青年が泳げないと嘘を言っていたことをなじってぶつが、ただ、大人に八つ当たりするばかりじゃいつまでも子供だと言って、彼に自分の体を許すのだ。
そして、岸について青年を降ろしてやり、夫に対して、この青年に肌を与えたわと言う。
夫は、自分を助けようと思って嘘を言うのだろうと言って、信じようともしない。
いや、信じたくないのだ——-。
このヨットの上での一日の出来事の中で、映画の冒頭で提示された三人三様の心のもつれが、徐々に救いようもない根深い葛藤の様相を、散らつかせてくる”心理的な緊張感”が、この映画の最大の見せ場になっているのだ。
そして、この心のもつれの中には、恐らく、三つの要素があるように思う。
まず、夫と妻の間の微妙な”不信感”だ。
P.N.「オーウェン」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★★
- 投稿日
- 2024-05-21
この映画の冒頭のシーンは、三人がそれぞれに心の中に持っている鬱屈した感情が、ズバリと表現されている、実に印象的なシーンだと思います。
妻にとっては、夫の嫌味なエゴイストぶりは決して愉しいものではなさそうで、どうせこういう人だから仕方がないというような、なかば諦めの気持ちが、彼女の無愛想な無表情を包んでいるのだ。
夫にしてみれば、妻がそういうふうに自分を密かに軽蔑していることは百も承知で、だからこそ、いっそう虚栄をはってイライラしているという感じなのだ。
これに対して、青年は金持ちの傲慢さに腹が立ってしょうがないので、妙につっかかるような口の利き方をするのだが、妻はこの子、面白い子ね、みたいな顔をするのが、夫にとってはまた微妙にカンにさわるのだが、俺はこんな若僧のことなど何とも思っていないぞ、という気持ちを誇示するために、青年をヨットに同乗させてしまうことになるのだ——-。
映画はその後、ヨットの上での三者三様の思惑を心の底に秘めながら、壮絶な心理戦が展開していくことになるのです。
P.N.「オーウェン」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★★
- 投稿日
- 2024-05-21
このポーランド映画「水の中のナイフ」は、鬼才ロマン・ポランスキー監督の名を世界に知らしめた長編デビュー作だ。
裕福な生活を楽しむ中年の夫婦が、湖へバカンスに行く途中で、貧しげなヒッチハイクの青年を車に乗せたところから、この奇妙な物語は始まります。
このたった三人の登場人物を駆使して、一見、何事もないような平和な生活の底に淀んでいる頽廃を、水もしたたるような鮮やかな手法で、現代における世代間、階層間の埋めようもないギャップや断絶を描いた、心理劇の秀作だと思います。
スポーツ評論家だという中年の男とその妻が、ある日曜日に、高級車を飛ばして、ヨット遊びをするために湖へ急いでいる。
その途中、ヒッチ・ハイクの青年が車の前に立ち塞がるのだが、この時、この中年の男は、この生意気な小僧めと怒るが、妻はいいじゃない、乗せてやったらみたいな表情を見せ、青年はこの金持ちの中年男の傲慢さに強い反撥を感じながらも、うわべでは、どうせ住む世界が違うんだからみたいな顔をしているというように、三者三様の思惑を垣間見せながら、男はこの青年を乗せてやることにする。