貴族の巣 感想・レビュー 1件

きぞくのす

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P.N.「オーウェン」さんからの投稿

評価
★★★★★
投稿日
2024-06-01

※このクチコミはネタバレを含みます。 [クリックで本文表示]

滅びゆくロシア貴族への限りなきノスタルジーを、彷徨えるインテリ貴族の心象風景を通して、ツルゲーネフ文学の精神と香気を伝える 「貴族の巣」”

このアンドレイ・ミハルコフ=コンチャロフスキー監督の「貴族の巣」は、これがソビエト映画かと疑ってしまうほど、清新な映像感覚に溢れた作品だ。

1970年度の作品ということで、映画史的に言うと、いわばソ連のニューシネマと呼ぶべき作品なのかも知れない。

時代は、19世紀のロシア。地方貴族のラブレツキー(レオニード・クラーギン)は、長く西ヨーロッパで暮らしていたが、華やかで空疎な社交生活のうちに妻の不貞にあい、傷ついて故郷に帰って来る。

したたる緑、光と影の交錯、むせかえる大地の匂い。
その安らぎの風景の中で、彼は美しく成長した遠縁の娘リーザ(イリーナ・クプチェンコ)に会い、少年のような恋をする。

リーザは心優しく、信仰心の厚い清純な乙女だ。
だから、彼女は愛を恐れ、愛には罪が伴うものだと思ってしまう。

その心が、深くラブレツキーに傾いた時、先に病死と伝えられた、彼の妻バルバラ(ベアタ・トゥイシケヴィッチ)が姿を現わす。 そのため、リーザは修道院に入り、バルバラは再びパリへと去り、そして、ラブレツキーは、今ようやく”わがロシア”の大地に根をおろそうとするのだった--------。 当時、若干23歳の新進気鋭の若手監督だったアンドレイ・ミハルコフ=コンチャロフスキー監督は、彷徨えるインテリ貴族の挫折の心象風景を、見事に、尚かつ大胆なイメージで捉えて、滅びゆくロシア貴族への限りなきノスタルジーを甘美に謳い上げるのです。 主人公のラブレツキーが、亡き母の面影をしのぶ時、うす紫の花を抱えて、ひとり野を行く淋しげな幼女の、そのイメージに寄せる悲しいまでの愛しさは、リーザを恋うる思いから、さらに母なる大地へと繋がるのです。 こうしたあたりにも、原作の精神と香気を見事に伝えようとする、アンドレイ・ミハルコフ=コンチャロフスキー監督のツルゲーネフ文学に対するオマージュ、祈りの精神に溢れた映画だと思います。

最終更新日:2024-06-11 16:00:02

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