P.N.「オーウェン」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★★
- 投稿日
- 2024-06-19
このウディ・アレン監督の映画「ブロードウェイと銃弾」は、1920年代のブロードウェイ演劇の世界を題材にした、いわゆる”バックステージ”ものの傑作だ。
お話自体は、一見古めかしく、例えば、芝居の資金を出すギャングが自分の愛人に大役をつけろと要求する。
そして、この愛人というのがどうしようもない女で、芝居も下手で、主人公の脚本家兼演出家は、「芸術か、出世か」の板挟みに苦しむというように、型通りに展開していくのだが、この映画が素晴らしいのは、何と言ってもそのキャスティングの妙に尽きると思う。
伝説的な女優に扮したダイアン・ウィーストと、それから思いがけず作家的な才能を開花させてしまうギャングに扮したチャズ・パルミンテリが素晴らしくうまく、そしておかしい。
この映画の主人公は、昔だったら監督のウディ・アレン自身が演じた役どころだと思うが、その役を演じたジョン・キューザックは、”受けの演技”を無難にこなしていて、彼とダイアン・ウィースト、あるいは彼とチャズ・パルミンテリの、一対一の芝居の場面が、グーッと惹き込まれてしまう、充実した寸劇になっていると思う。
やはり、うまい人同士の芝居って、こんなにも観ている我々を、楽しく贅沢な気持ちにさせてくれるものだと、つくづく思ってしまう。 「俺はアーチストだ!」とわめいていたジョン・キューザックが、実際には妥協に妥協を重ね、ギャングのチャズ・パルミンテリが、実際には「美しい芝居」のためには、人殺しも辞さない----という皮肉は「芸術的良心」なるものの”本当の怖さ”を知っているからだと思う。 この映画に登場して来る女たちが、ハイ・テンションのやっかいな女たちばかりで、それをシリアスにではなく、喜劇的に描き出しているところにも感心させられた。 そして、今までだったら、モノクロ画面にしたところだろうが、わざとセピアがかったカラー画面にしたのにも驚かされた。 やはり、こうしたところにも、ウディ・アレン監督のセンスの良さを感じてしまう。
尚、この映画で伝説的な女優を演じたダイアン・ウィーストが絶賛され、1994年度の第67回アカデミー賞で最優秀助演女優賞、ゴールデン・グローブ賞、NY映画批評家協会賞、LA映画批評家協会賞、全米映画批評家協会賞の最優秀助演女優賞をそれぞれ受賞しています。