P.N.「鎌倉の御隠居」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★☆
- 投稿日
- 2026-01-10
志の高い作品である。瑞々しい映像美に満ちている。劇伴にも工夫が凝らされている。
結構は四部だて。第一章競争から始まり、童心、無常と続いて、最後の流転は、零章となっている。よく練られた脚本である。台詞は僅少、ドラマシーンと風景描写とがほぼ同量に観る者に差し出される。仕上がりそのものは雄弁である。
ただ風景の美しさに比して、描かれるドラマは極めてステレオタイプ。冒頭パートは、監督自身の実体験を踏まえているようだが、あまりにありきたり。しかしながら、その当たり前さにこそ深い意図があるのだが、そうと分かって受け止められるのは、おそらく関連情報や事後の説明があったればこそ。第二章の童心と銘打たれたパートは甘味な抒情に彩られているが、どのシーンも既視感を拭い去ることができない。友人の死を挟んだり、幼馴染みの子を持つ感激を語り、祝意に迎えられたろう新生児を大写しにする三章、零章とも同様。
第一章で描出された問題点をありきたりと享受してしまうほど常態化している現況を、監督は、美しい日本の風景と並べるべき「日本の不健康な習慣」として深い想いをもって提示し、作品の重要なメッセージとしていることは理解した。しかし、それは幾許かの関連情報、上映後の舞台挨拶等なくしては残念ながら認識出来なかった。その点が、誠に惜しまれる。鑑賞者の読解力不足だとされるならその責めは負う。
しかしながら監督伊地知拓郎、製作小川夏果氏に対する本作具現化についての志、努力、推進力には、いささかも賛辞を惜しむものではない。中国に軸足を置くことも、今だからこそ、より重要である。将来、未来も大いに期待する。それゆえにこそ、仕上がりについては辛口にならざるを得ない。27歳の若さを有する監督から、これまでの人生で云々などという言辞は聴きたくない。懐旧の念も時期尚早。無いものねだりが過ぎるだろうか。
すでに次回作を準備とのこと。猪突邁進し、力感をもって既成の価値観を打破、更新することを期待したい。
