P.N.「さまよえるオッサン」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★★
- 投稿日
- 2025-04-08
※このクチコミはネタバレを含みます。 [クリックで本文表示]
2019年に92歳で亡くなった名優織本順吉さんの晩年を、映像作家の娘が活写したドキュメンタリー映画。自分の家族の実像を撮るという点では、ロングラン上映になっている『どうすればよかったか?』に並ぶ力作。もし近場で上映されていたら、89歳の父も連れて観に行きたかった。
映画に出てくる織本さんは、これまでテレビや映画で観てきた織本さんとは違う。時に自らの感情をコントロールできず、何を言っているのかさえわからない。歩くのもやっとで、セリフ覚えも悪い普通のお爺さん。それでも依頼された仕事には、やれる限り真剣に取り組まれていた。
そしてついにやってくる最期の日々。死期の迫った織本さんが、病床でこのドキュメンタリーの一部を観て呟く。
「お前(娘)がこれを撮ってくれて良かった」
「こんな幸せな役者人生はない」
名脇役織本順吉は、最期に人間中村正昭として主役を演じた。
たぶん織本さんは、決していい父親ではなかった。しかし娘は、役者織本順吉に敬意を払っていたからこそ、これを撮った。
死期の迫った織本さんの頬を、一粒の涙が伝う。それは名優織本順吉として、また人間中村正昭としての、いわば髄液。
凄いドキュメンタリー映画だった!