P.N.「安曇」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★★
- 投稿日
- 2025-05-05
※このクチコミはネタバレを含みます。 [クリックで本文表示]
地元倉敷を舞台とした映画制作を切望されながら断り続けた平松監督だが、コロナ禍での花火打ち上げの実話を聞きようやく首を縦に振った。それがこの物語の種子であるのは事実だが、そうして立ち上がった企画も資金調達に至らず一度は頓挫し、パイロット版制作を通じて気運が高まり遂に映画化を実現したという「もう一つの実話」が、この物語を芽吹かせた慈雨だったように思う。(パイロット版と映画版でのいわば「窯変」はこのプロセスゆえに生じたのではないか)
40秒版予告編で高橋大輔演じる古城緑郎が「君たちが花火にこだわる理由は何?」と山時聡真が演じる蒼と櫻井健人が演じる祈一(黄)に問う言葉は様々な登場人物を通じて形を変えつつリフレインされ「綺麗なことは大切だよ」という真意に収束していく。それは現実に押し潰されそうな中島瑠菜演じる紅子が、感情を表現できないだけで自我を持つ兄きょんくん(演じるのは堀家一希)の自立に気づき、家族(白神家)との関係を再構築していくきっかけとなり、若者に振り回されているという認識だった大人たちに巡り巡って「ふるさととは」という当事者意識を生じさせた。
花火打ち上げの実話をベースにしながらも伝建地区である美観地区では花火は上げられない。それでも監督と実行委員会は美観地区に花火を上げた。心の中に花火を視ることが人にはできる。
120秒版予告編で古城が「想像してみませんか?」と語りかけるこの言葉は、現実を変えていくのは何なのかという問いでもある。
ファンタジーとリアルの狭間で。白赤青黄緑の風船を持つ橋爪功が何とも印象深い存在感を放っている。あれは映画冒頭の紅子の独白にある「絵の神様」なのではないかと思った。
明確に倉敷を映すが、ご当地もの映画には留まらない。見終わった後に感じるのは、考えさせられるのは、自らのふるさとや家族、大切な人々との「つながり」についてだった。