P.N.「オーウェン」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★★
- 投稿日
- 2024-06-08
※このクチコミはネタバレを含みます。 [クリックで本文表示]
ニューメキシコのさびれた田舎町。真っ昼間だというのに町はがらんと静まりかえっている。
だが、何かが起こりそうな気配だ。
チャーリー・バーリック(ウォルター・マッソー)とその女房を乗せた車が、オンボロ銀行の前に静かに横づけになる。
パトカーが駐車禁止ですよと近寄って来るが、すぐに済みますとばかりにかわして、バーリックは銀行の中へ。
すると、中にはすでに仲間がいた。ホールドアップ! あっという間の銀行強盗。
いつもはなで肩でしまりのない、ぐうたら男のウォルター・マッソー、人が変わったように機敏に動き回る。
襲撃成功と見えた瞬間、パトカーがもう一度戻って来る。外の車にいた女房に「ちょっと免許証を」。
持っているわけがない。途端に女が拳銃をぶっぱなした。
吹っ飛ばされる警官。撃ち返される強盗たち。
けだるく静かだった町が、一転して血だらけになる。
弾を食らって横転するパトカー。わめき続けるサイレン。 ボンネットをあけたままガムシャラに突っ走る逃走車。 追っかける警官。「あいつら生きたままこの州からは出さねえ!」。 アスファルトなどなく、石ころだらけの田舎道を、銃弾を浴びてガタガタになった車が、猛烈なスピードで突っ走る。 この間、時間にして10分ほどだが、当時60歳のドン・シーゲル監督、乗りに乗っていて、やっぱり、ドン・シーゲル監督の映画にはいつもしびれる。 「ワイルドバンチ」の冒頭の銀行襲撃から逃走までの迫力に勝るとも劣らない。 音楽は「ブリット」「ダーティ・ハリー」「燃えよドラゴン」のラロ・シフリン。 熱っぽいガソリン臭い音楽にのって、ドン・シーゲル監督、最後まで快調に飛ばし続ける。 結局、女房は警官に撃たれて死に、残ったのはバーリックと、若い相棒のハーマン。 このハーマンを演じるのが、「ダーティ・ハリー」で狂気の犯人を演じて、我々映画ファンの度肝を抜いたアンディ・ロビンソン。
女は死んだが金は奪った。まずは成功だ。だが、奪った金が予想外にデカすぎた。 バーリックは、もうかなりのポンコツだから、もっぱらオンボロ銀行から小銭を奪うのが専門だ。 これならケチな仕事だから安全だ。それが今度の中身は、田舎の銀行なのに100万ドル近い大金。 それもその筈、この金はマフィアの隠し金だったのだ。 警官は州を越えたら追って来ない。 だが、マフィアはそうはいかない。まずいことになった。 追っかけるマフィア側、ボスはドン・シーゲル一家の代貸みたいな存在のジョン・ヴァーノン。 そして、手下の殺し屋が「ウォーキング・トール」で、その存在感を示したジョー・ドン・ベイカー。 このジョー・ドン・ベイカーが、とにかく怖い。 プロレスラーみたいにたくましく、背広姿にカウボーイ・ハットという、まるで田舎者のスタイル。 ニヤニヤ笑いながら獲物を追いつめる。 若い相棒のハーマンは、この男に捕まってなぶり殺されてしまう。 ポンコツのウォルター・マッソーは、果たしてこの凶暴な殺し屋から逃げおおせるのか? -----------。
サム・ペキンパー監督の「ゲッタウェイ」は、女連れだったが、こちらは男一人。 ここで、面白いのは、「ゲッタウェイ」でのスティーヴ・マックィーンは、めったやたらとショット・ガンを撃ちまくったのに対し、この映画でのウォルター・マッソーは、ただの1発も拳銃を撃たないことだ。 拳銃は早々と逃走の途中で川の中に棄ててきている。代わりに使うのがオンボロ飛行機と、もうひとつ、"頭"だ。 ウォルター・マッソーは、ただガムシャラに突っ走るだけでなく、老獪に敵に対していく。 このあたり、ドン・シーゲル監督はかなりサム・ペキンパーを意識している感じだ。 殺し屋の追跡をかわしながら、逆に敵の情婦を寝取って円型ベッドで楽しむところなど、余裕しゃくしゃくで笑わせてくれる。 そして、ラストはポンコツ飛行機と車の壮絶な追跡戦だ。 拳銃を1発も使わなくてもアクション映画をスリリングに見せるのだから、ドン・シーゲル監督には完全に脱帽だ。
この映画でもう一ついいのは、舞台がニューヨークやロサンゼルスではなく、ニューメキシコの田舎だということだ。 そして、主人公のチャーリー・バリックは、泥だらけの田舎者のヒーローだということだ。