真っ赤なタマゴ型ボディにまんまるの大きな目玉を持つ愛らしいロボット「ロボコン」。“ロボット根性”こと“ロボ根性”で頑張って人間をお手伝いするこのロボコン、「がんばれ!!ロボコン」(1974~1977)、「燃えろ!!ロボコン」(1999~2000)と、昭和・平成の時代に子どもたちから愛された人気キャラクターだ。
このロボコンが20年ぶりに映画になって帰ってきた。映画『がんばれいわ!!ロボコン ウララ~!恋する汁なしタンタンメン!!の巻』は、中華料理店「全中華」にお手伝いにやってきたロボコンが、ヒロシ少年や汁なしタンタンメンたちと一緒に繰り広げるコメディ映画だ。20年ぶりにロボコンに命を吹き込んだのは声優の斎藤千和。コロナ禍で色々と制限の多い中、タイトなスケジュールでアフレコに臨んだという彼女にインタビューを行った。
昔からファンの多いロボコンというキャラクターを演じると決まった時は、どのようなお気持ちでしたか?
■斎藤千和:私はいわゆる「ロボコンっぽい声」ではないと思っていたので、正直驚きましたね。オーディションの時には、とにかく楽しく、好き放題に演じました。まさか自分に決まると夢にも思っていなかったので、決まったと聞いた時はうれしかったですね。でもオーディションであまりにも好き勝手にやってしまったので、これはハードルが高いぞ、どうしようと…。でもやっぱりうれしかったですね。
「ロボコン」という作品にはどういう印象をお持ちでしたか?
■斎藤:昭和の「がんばれ!!ロボコン」の時には、まだ生まれていなかったんです。平成の「燃えろ!!ロボコン」の時は、大学生くらいだったので、あまり特撮番組などを積極的に観ていなくって。世代的にあまり「ロボコン」というキャラクターにハマった世代ではないんです。だから、ロボコンに固定のイメージを持っていなかったので、逆に良かったのかもしれません。レジェンドの先輩たちの真似をせずに演じることができたと思います。
「ウララ~!恋する汁なしタンタンメン!! の巻」という変わった副題がついていますが、初めて台本を読まれた時の感想はいかがでしたか?
■斎藤:実は、台本を読んでもあんまりイメージがわかなかったんです。オーディションではロボコン役と汁なしタンタンメン役を受けたんですが、まず「汁なしタンタンメン」っていうキャラクターって何?どういうこと?って。「恋する汁なしタンタンメン」って、けっこうなパワーワードですよね(笑)。
確かに、汁なしタンタンメンが恋をすると言われても、台本だけだとイメージがわかないですね。
■斎藤:他にも「火を噴くロビン」とか「爆発するロボコン」とか台本に書かれているんですが、そのレベルがまったくわからなくって…。だから、これは実際に映像を観てみないとわからないので、出来上がった映像を観て、その勢いに合わせていったほうがいいだろうと思い、あまり事前に台本を読み込まずにアフレコに臨みました。ホントはよくないのかもしれないですけど(笑)。
ロボコンとしては三代目になりますが、以前のロボコンを意識されたのでしょうか?
■斎藤:以前の作品は、ちょっとだけ観て止めました。昭和のロボコン、平成のロボコンを観ていた大人の方たちを最初は意識していたんですが、今の子どもたちに向けて演じなきゃいけないと我に返ったんです。大人になった人に“懐かしさ”を提供するのではなく、今リアルタイムで見てくれる子どもたちのために演じないといけないと。先輩たちから託されたロボコンというキャラクターを今の子どもたちに喜んでもらいたいので、とにかく楽しく、ストレートに元気に演じましたね。
どのようにロボコンの役作りをされたのですか?
■斎藤:最初はロボコンというキャラクターを難しく考え過ぎていたんです。でも2歳の息子を送り迎えする時に、車の中で「ロボ根性~!」「ウララ~!」と、いろいろなテンションで言ってみたんです。そうしたら、言い方によってすごく喜んで真似してくれる時と、あまり響かない時があって。やっぱりロボコンは子どもが喜んでこそのキャラクターだと思うので、すごく参考になりました。大人がイメージする言い方と子どもが喜ぶ言い方って、やっぱり違うんですよね。声優としては「こんな表現もできます」「こんな引き出しもあります」といろいろやりたくなっちゃうんですけど、子どもに喜ばれるのはストレートで元気な表現で。子どもにはこういうストレートさが響くんだなと、学びがありましたね。
普段からお子さんの前でセリフを言ったりされているんですか?
■斎藤:声優という自分の仕事を子どもには話していないので、まったくやったことがなかったんです。今回のロボコン役は特別ですね。まだ出来上がった作品を観ていないので、子どもと一緒に劇場で観ようと思っているんですが、劇場で観てもまさかママだとは気づかないんじゃないかなと思います(笑)。
特撮ということで、演じる上でアニメとの違いなどはありますか?
■斎藤:特撮はやっぱりスーツアクターさんや俳優さんが演じているので、映像だけで十分に説明がついているんですよね。だから、声優は映像を完成させるための一つのスパイスだと思うんです。やっぱりメインは演じているスーツアクターの神尾直子さんなので、私は彼女が演じてくれたロボコンのキャラクターを活かしたいと思いました。既にロボコンの感情はスーツアクターさんが表現してくれているので、こちらも迷うことなく演じることができましたね。
普段の役作りとオリジナルがある作品では、役作りの方法が違うのでしょうか?
■斎藤:やり方としては変わらないですね。もともと自分が「こうやりたい」「こう見て欲しい」と思っているタイプではなくて、監督や原作者さんがどうしてほしいかを考えて芝居をするタイプなので。私が監督だとしたら、オリジナルを真似されたら嫌だと思うんですよね。だから昭和や平成の風を少し感じられるような懐かしさを込めつつ、まっすぐで元気なロボコンを演じました。私にできることは、監督さんやスーツアクターさんが作り上げた映像に瞬発力でついて行って表現することだけなので。
台本とセリフが違っているシーンもありましたが、アドリブなどもあるのでしょうか?
■斎藤:まったくのアドリブはあんまりないんですけど、セリフをつけ加えたりはしますね。やり始めるとあんまり深く考えずに勢いで盛っちゃうタイプなので…。そう言えば、「ロボ根性~!」というセリフがなぜか本編の台本になかったので、監督に「『ロボ根性』って言いたいです!」と談判しましたね。あと、サブタイトルにある「がんばれいわ」という表現もセリフの中になかったのでこれも自分でお願いして加えてもらいました(笑)。
今作は7月31日の公開ですが、緊急事態宣言が解除後の撮影で、かなりタイトなスケジュールだったと聞いたのですが、アフレコの方のスケジュールはいかがでしたか?
■斎藤:そうですね、アフレコもかなりタイトなスケジュールでしたね。オーディションから選出までも早かったし、そこからアフレコまでもすぐでした。アフレコの時もソーシャルディスタンスを取る必要があるので、広いスタジオの中にポツンと一人で入って、短時間でレコーディングしていきました。あまり考える時間もなく一気に録音したって感じです。
他に、何かコロナの影響はありましたか?
■斎藤:初めて映像を観た時に衝撃的だったんですが、出演者たちがマスクをつけているんです。でも、それが“今この状況で”映画を観る時にはちょうどいいと思いました。子どもってやっぱりマスクをつけるのを嫌がるんです。でも映画の中でキャラクターたちがマスクをつけていると、子どもたちもマスクをしてくれるようになるだろうし、親としても安心して見られますよね。
最後に、作品を見てくれる方たちにメッセージをお願いします。
■斎藤:こういうご時世で、楽しむこと、楽しくなることにちょっと気が引けちゃう人もいると思うんですが、「楽しい気持ち」って人間にとってパワーの根源となる一番重要なことだと思うんです。いろいろなことを自粛しなければならない今だからこそ、この映画を楽しんで、パワーをもらって欲しいと思います。『がんばれいわ!!ロボコン ウララ~!恋する汁なしタンタンメン!! の巻』というタイトルだけ聞くと「なんじゃこりゃ」と思うかもしれませんが、観終わった後にはきっと楽しい気持ちになって、元気が出ると思います。
40年以上前から子どもたちに愛されてきた「ロボコン」というキャラクターを演じた斎藤千和。前作・前々作へリスペクトとともに、現代を生きる子どもたちのための新しく魅力的なロボコンができあがるまでを楽しく語ってくれた。初代の昭和ロボコンを知っている45~50代も、平成ロボコンを楽しんだ20代も、この令和ロボコンの可愛らしさ、元気さを愛さずにはいられないはずだ。自粛自粛のこのご時世だからこそ、換気の効いた映画館でマスクを着けて、『がんばれいわ!!ロボコン』を家族で楽しんで欲しい。
【取材・文】松村知恵美